「表紙」2015年1月29日[No.1554]号
目標は世界タイトル!
サンドバッグにしなるようなきれいなキックが決まると、ビシッと重く鋭い音が響く。
首里久場川町のジムで、シャドーボクシング、ミット打ち、サンドバッグ、そして、スパーリングと、全身に汗をにじませながら激しい練習を続けているのは、田嶋はるさん(31)。彼女は沖縄では数少ない女子のプロキックボクサーであり、日本チャンピオンという輝かしいタイトルの持ち主だ。
2007年に東京でプロデビューして以降、2010年に一度引退したのちに、移住先である沖縄で現役復帰を果たした田嶋さんは、沖縄の女子格闘技界を変える逸材として注目されている。「目標はキックボクシングの本場、タイの選手との世界タイトルマッチです」とさらなる夢を語ってくれた。
やり残した夢のため、沖縄で決意
田嶋さんがキックボクシングと出合ったのは大学在学中の20歳の頃。
「当時は大学の部活動で少林寺拳法をやっていて、夏休みで練習がない間にトレーニングとダイエットをかねて、たまたま友人が通っていたキックボクシングジムに誘われて行ったんです。そうしたら、一度でキックボクシングの面白さにはまってしまいました(笑)」
卒業後、本格的にキックボクシングの道へ進むと、またたくまに才能を発揮して、アマチュアの大会で実績を挙げ、プロデビューを果たし、2008年にはJ-GIRLSミニフライ級の王者となった。
その田嶋さんが、一度引退を決意したのは27歳の時。
「膝や足首の怪我が蓄積されていて、思うような動きができなくなっていた時期がありました。プロとしてしっかり練習ができない状態でリングに立つのはお客さまにも失礼だという思いで、引退を決めたんです」
その後、旅行で何度か訪れ、ずっと住みたいと思っていた沖縄へ移住。プロを引退しても、キックボクシングへの熱が冷めなかった田嶋さんは、沖縄でも練習ができるジムを探した。そこで出会ったのが、現在所属しているジムの代表である総合格闘家の砂辺光久(みつひさ)さん(35)だった。
「プロに復帰するきっかけは、砂辺さんに言われたことがとても大きかったんです。一緒に練習をしたあと、『現役中にやり残したことはなかったのか』と聞かれて、『タイの選手とムエタイのルールで試合をしたいとずっと思っていたけどかなわなかった』と話したら、『今からでも遅くないと思うから、もう一度、リングに上がってみたら。できる限りのサポートはするよ』と言われたんです。その言葉がなければ、今も復帰していなかったと思います」
規格外の女子選手
昨年復帰を果たしてからは、国内で3戦2勝。12月にはWPMF日本女子アトム級王座決定戦(対 紅絹(もみ)選手)に勝利して、見事新チャンピオンとなり、現在、タイの選手との世界タイトル戦を目指して、練習を積み重ねている。
自らも総合格闘技・パンクラスの現役王者として第一戦で活躍している砂辺さんは田嶋さんについてこう語る。
「最初にスパーリングで手合わせした時に、やっぱり女子としてはレベルが違う、規格外の強さだと感じたんです。だからこそ、現役復帰を勧めた。田嶋選手は戦い方がきれいでしっかりしたテクニックを持っているから、女性から見ても『カッコいい』と憧れる選手だと思います。そういうプロの選手が身近にいると励みになるし、キックボクシングに興味を持つ人が増えれば、試合に出たいという人も増えていくと思います」
男子に比べて、女子格闘技の選手がとても少ないという沖縄。パンチだけでなく蹴りがあるキックボクシングは全身運動としてフィットネス効果が高く、女性の人気を集め始めている中で、美しきファイター・田嶋選手の存在は沖縄の女子格闘技界を変えるカギとなりそうだ。
(長嶺陽子)
キックボクシングはタイのムエタイの試合ルールを参考にして、日本で考案された打撃格闘技。国内に多くの団体があり、ルールは団体によって異なる。ローキック、肘打ち、ボディーおよび顔面への膝蹴りを認めるムエタイ式ルールの他、肘打ち、膝蹴り、顔面への攻撃を禁止して安全性を高めたルールもある。女子は1ラウンド2分(男子は3分)の場合が多く、基本的には3回戦(タイトルマッチは5回戦)。女子キックの国内大会はJ-NETWORKによるJ-GIRLSが定期的に開催されている。
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