「表紙」2015年2月5日[No.1555]号
無の境地で心身を磨く
太極拳は、しなやかな身のこなしと腹式呼吸を組み合わせ、動きながら瞑想(めいそう)に近い状態をつくる「動禅」という考えが根底にある。
無の状態で全身をリラックスさせストレス解消にもつながる、心身の休息状態をつくり出す。その瞬間は「気持ちの良い」感覚なのだという。
浦添市経塚の住宅地の一角にある天行建(てんぎょうけん)中国武術館では、約500人の幅広い年代の生徒たちが自分のペースに合わせて心と身体を磨いている。
武道といえば、どこか求道的なイメージを抱きがちではあるが、「健康目的や文化に触れたいなどの理由で通い始める人が多いですよ」と、体力に合わせて無理なく始められるその魅力を宋麗(そうれい)総師範(52)と宮平保(みやひらたもつ)館長(51)は話す。
リラックスして内面から健康的に
太極拳に親しんでいる人は思っている以上に多いと感じた。天行健武術館の指導員が県内各地の公民館やレクセンターなど35カ所の施設に出向き、太極拳クラスが開催されているからだ。健康法として確立されているため、老若男女問わず楽しむ要因も後押しする。
同館の総師範である宋麗さんは中国四川省出身。幼いころから武術を始め、8歳の時に四川省の武術プロチームにスカウトされる。その後、全中国武術選手権大会において3度の優勝を飾った世界クラスの中国武術家だ。国家を代表する競技のチャンピオンという意味では、日本でいうところの柔道の金メダリストのような存在だろう。
現役バリバリで活躍しているとき、中国に武術留学をしていた現館長の宮平さんと出会い、27歳の時に結婚を機に沖縄に移り住んだ。「当初は言葉の面で少し苦労しましたが、沖縄は中国と文化が似ているので、すぐに慣れることができました。そういう部分から、沖縄に太極拳を広めることの意味を感じました」と20数年前を思い出す。
宮平館長も修得した琉球空手と関わりが深い中国古伝武術の奥深さを求めて海を渡った。琉球空手と共通点のある中国武術の太極拳を通じて、現在でも生徒と共に中国を訪問するなどつながりを深め、文化交流を図っている。
「仁」=優しさ、「義」=正義、「礼」=礼儀、「智」=智恵、「信」=信頼、と精神性も重視される中国武術の心。宮平館長は「特に智恵を『知』ではなく『智』と表現しているのは、自ら応用して考えるという意識があります。太極拳は技の動きの組み合わせです。また、本当に強い者はむやみに腕力に頼りません。武術は、真に強くなることで争いを無力化するという本質があります」と神髄を伝える。
体力に合わせ無理なく
腰を落とす姿勢が足腰を丈夫にすることにつながり、片足立ちや重心移動による動作で体幹を鍛えることができる。呼吸法を組み合わせた有酸素運動で、個々の体力や体調に合わせて自分のペースでステップアップできるのも、誰もが取り組みやすいポイントである。筋力に頼らない身のこなしを覚えていくため、年齢を重ねても高みを追求できるのも魅力だ。
太極拳歴14年で週に3回、道場に通い続けている村山啓子さん(66)は「仲間の誘いをきっかけに始めました。長年、腰痛持ちだったのですが、下半身が鍛えられ痛みがなくなりました。リラックスすることもでき無理なく続けられるので、暮らしの一部になっています」と健康面が改善されたことをうれしそうに話す。
同じく太極拳歴10年の伊志嶺洪(ひろし)さん(61)は「内側から身体が温まって血の流れも良くなる。全身に気が巡ることを実感できます。道場に通ったあとはスカッとするんですよね。始めてから明らかに体調が良くなりました。もっと型が上手になりたい」と向上心を忘れない。
動作で筋力や体幹を鍛え、呼吸法などでリラックスした禅状態を作り疲労回復の効果を生み出す。体力と精神の両面から健康になれる太極拳。体操の感覚で気軽に始めてみてはいかがでしょうか。
ナガハマヒロキ/撮影・村山望
太極拳は大きく2つのスタイルに分類される。武道、護身術が目的の「対人練習や推手」では実践的な武術テクニックを修得する。一方、健康法に重点が置かれるのは「型」を中心とした練習となる。身体の伸びやしなやかさ、呼吸法と合わせた動作の正確さが求められる。
ただ、太極拳の型は明確なルールの定義がなく点数化が難しい。競う術ではなく自身のために追求し、身体の内面からの健康法として存在するという考え方が現在の主流である。
天行健武術館
住所=浦添市経塚900番地5
電話=098-873-1151