沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1563]

  • (金)

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「表紙」2015年4月2日[No.1563]号

母娘燦燦

母娘燦燦— おやこ さんさん — 1

琉球舞踊 玉城流てだの会
家元 玉城 千枝さん 玉城 侑香李さん 玉城 枝里さん

母を師に、研さん積む

 友達、ライバル、そして分かり合える女同士。母と娘は歳を重ねる折々に、間柄が変化することもあってつながりを深める。新企画では、「母娘燦燦(おやこさんさん)」をテーマに、互いのかかわりを通して輝きを放つ母と娘を紹介していく。初回は、琉球舞踊家の玉城千枝さん(67)、長女の侑香李さん(43)、次女の枝里さん(40)の母娘。母・千枝さんは、「玉城流てだの会」家元。琉舞の道55年、創作琉球舞踊をも極めた。師と弟子、母と娘として向き合いながら、侑香李さん、枝里さんは母が開いた琉舞の道を歩む。



女役から男役、芝居と創作、組踊へ

 宮廷舞踊の流れをくんで連綿と続く琉球舞踊。流派を超えた修練の踊りが華やかな伝統を支えている。

 玉城流「てだの会」家元、玉城千枝さんは戦後の荒廃が治まりきらない時代に、糸満で5人姉妹の次女に生まれた。父も母も琉球芸能好きとあって、母の勧めで近くのけいこ場で踊りを習う。幼年期は、地域の踊り手として鳴らした。

 7歳のころ、一家は那覇市に転居する。12歳のころ、近所の故又吉全敬氏の勧めで玉城節子師(現翔節会家元)の門下となった。琉舞に向き合い、ひたすらに踊る楽しさ、けいこの楽しさに目覚めるきっかけとなる。4歳年上の長女、静枝さん(現玉城流いずみ会家元又吉静枝)と一緒にけいこ場通いに明け暮れた。

 「何でも始めたら一生懸命取り組む性格です。先輩である姉に追いつこうと、隠れてけいこをする強さもあった。名前通り„静“の人である姉に対して、私は„動“の性格。対照的です」 琉舞を修得する道すがら、芝居の舞台にも立つ。芝居では女役を演じるが、踊りでは高校を卒業したころ肩幅が出て、姉と入れ違いに男役に。「当初は女々しい男だね」と評価されたが、持ち前の探究心で男を踊りきった。その経験から男、女の踊りを見極める力を得る。



舞踊家としての母

 千枝さんは結婚後、出産、公演旅行、道場開設と琉舞のけいこに明け暮れる。教師免許取得時の発表会では、次女の枝里さんを妊娠した7カ月の身重で「諸屯(しゅどぅん)」を踊ったという。

 「2人の娘に恵まれ主人との二人三脚で、両親や周囲の助けを借り、体力の続く限り舞台を続けることができた」

 自身の学ぶ場でもあった道場開設。人と人との出会い、娘たちのけいこ、芝居、組踊などが交差し、毎日が芸能との戦いの場となる。その中から古典舞踊を昇華させた創作舞踊「てだ心」は国立の創作大賞に、「初ムーチー」は、民間放送局主催の大賞受賞の快挙となった。さらに海外への使節団、国立劇場の公演に舞台が広がった

 そのような日々、娘達とは満足に話し合えなくて不満げであったが、「皆さんと奮闘する母をちょっぴり誇りに思いました」と次女の枝里さん。 「2人の娘の母になれたけれど、常に一緒にいる母親になれなかったことを反省しますね」

 娘2人は舞踊家の環境を自然に受け止め、また反発しながらも、新人賞を受験できる15歳に近づくと本格的に琉舞の道を意識したという。「姉は天才肌。直感で踊れるが、私は踊りの所作一つ納得しないと踊れない」と、枝里さんが評する侑香李さんは生後11カ月で立ち始めたかと思ったらもう踊っていたと笑う。



創作の舞台を母娘で

 侑香李さんは県立芸大に進み師範に、枝里さんは教師免許を取得して歯科衛生士のかたわら子育てをしながら母の開いた道を歩んでいる。

 結婚、子育てを経た娘達を、「今やっと2人は落ち着いた状況にあり、踊りにどう向き合っていくか、そろそろ見えてくると思います」と、師匠の目で見ている。

 「娘達の時代は変化している。今後は「千枝」の名前を継ぐのではなく、琉球芸能の一つで沖縄の風土に合う琉球舞踊として、娘達の名前で舞踊の世界を築き上げてほしい」という考え方に変わったと語る千枝さん。覚悟を決めるように言ったほうがいいのか、いわないほうがいいのか、この10年悩んだ末の結論のようだ。

 「いつか親子で創作の舞台に立てたらと思っています。まだ具体的に先は見えていない。でもそんなに母を待たすわけにもいかない」と侑香李さん。

 そんな二人を千枝さんは深いまなざしで見守る。

写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)



プロフィール

たまぐすく・ちえ
1947年糸満市生まれ 12歳のころ本格的に玉城節子師に師事。1975年より沖縄芝居実験劇場で真喜志康忠氏、幸喜良秀氏演出の歌劇・芝居に出演。国内や海外13カ国の公演に参加。創作舞踊「初ムーチー」で創作舞踊大賞を受賞し、多彩な創作舞踊を生み出す。1994年より玉城流てだの会家元として活動。組踊を演じ、子どもの指導に当たる。県指定無形文化財伝統舞踊保持者

たまぐすく・ゆかり
1971年浦添市生まれ 母・玉城千枝師に師事し、4歳で初舞台を踏む。玉城流てだの会師範。琉球芸能コンクール琉舞最高賞受賞。母・千枝とともに国内外の公演に参加する。2004年県指定無形文化財伝統舞踊伝承者 2007年県立芸術大学卒業後、各公演やOB会の活動に参加

たまぐすく・えり
1974年浦添市生まれ 母・玉城千枝師に師事し、琉球芸能コンクール琉舞新人賞、優秀賞、最高賞を受賞後、玉城流てだの会教師


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琉球舞踊
雑踊り「加那よー」のけいこの緊張感が溶けた一瞬。師である母千枝さんの手ほどきを受ける長女の侑香李さん(写真中央)。次女の枝里さんは夫の北海道転勤を終えて帰沖。久しぶりに3人がけいこ場にそろう=浦添市安波茶

琉球舞踊
姉・又吉静枝さん(写真左)と「加那よー天川」を男役で踊る
琉球舞踊
週2回のけいこは、師と弟子が真摯に向き合う場
琉球舞踊
創作舞踊「初ムーチー」を踊る侑香李さん
琉球舞踊
創作古典舞踊「てだ心(ぐくる)」
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