沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1662]

  • (金)

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「表紙」2017年03月02日[No.1662]号

父娘日和

父娘日和 47


沖縄県青果物卸商事業協同組合 理事長 高良 憲樹さん
翁長 真実さん

食べごろバナナを食卓へ

 甘くておいしく、栄養価の高いバナナ。おなじみの果物の多くはフィリピンから食卓に届けられている。そんなバナナの輸入から、検疫、燻蒸(くんじょう)、加工、販売までを一貫して手掛けるのが沖縄県青果物卸商事業協同組合だ。2代目理事長の高良憲樹さん(57)は、先代の父が立ち上げた事業を家族とともに守り続けている。2年半前から同組合で働き始めた長女の翁長真実さん(32)はフォークリフトの操縦もお手のもの。現場から家業を支える頼もしい存在だ。



先代の事業 家族で守る

 コンテナ船やフェリー、貨物船、外国クルーズ船などが寄航する那覇市港町の那覇港新港ふ頭。国内外を結ぶ流通拠点のそばにフィリピン産のバナナを直輸入する沖縄県青果物卸商事業協同組合がある。

 沖縄が祖国復帰した1972年、現理事長の高良憲樹さんの父、憲三郎さんが港から輸入される青果物を検疫や燻蒸(くんじょう)と呼ばれる消毒処理をする会社「沖縄燻蒸」を立ち上げた。数年後には、沖縄県青果物卸商事業協同組合を設立。通年輸入ができ、当時需要が多かったバナナに目を付け、検疫、燻蒸に加え、輸入から加工、販売までを一貫して手掛けるようになった。輸入青果物を扱う業者でバナナ専用の燻蒸処理や加工設備まで整っている施設は沖縄では2カ所しかないという。

 県のバナナ需要の約3割を賄う同組合。バナナが約80本入る箱を1500個搭載できる40フィートコンテナを月に10個輸入。年間18万箱の販売を手掛けている。

 学生のころから先代の父の手伝いをしていた憲樹さんは本格的に家業に携わり始め30年以上。「家族を中心に従業員8人でこじんまりやっている」と話す。現在姉の仲西加代子さんとともに事業を引き継ぎ、娘の真実さん、姉の息子の弘文さんとともにバナナを管理する。

品質維持に尽力

 店頭で見かける黄色くて甘い輸入バナナは、もともとは緑色で硬い。人為的にやわらかくて甘いバナナに仕上げる追熟処理も、同組合の仕事だ。エチレンガスで熟成させ、約5日かけて食べごろを見極め搬出する。

 「生ものを扱うのに苦労はつきもの」という憲樹さん。バナナは傷みやすく、少しの温度変化で質が落ちてしまう。過去には、フィリピンから沖縄に到着するまでの2週間の間にコンテナ設備に異常が発生し、コンテナの中身を丸ごと廃棄処分したこともあった。

 長女の真美さんが同組合で働き始めたのは2年半前。「創業者の祖父から将来は入ってほしい」とずっと言われていたというが、高校卒業後は違う道へ進んだ。アメリカへの語学留学を経て、事務関係、イベントの企画、飲食店などの仕事を経験した。

 入社のきっかけを「自然とこうなっていた」と話す真実さん。従業員が年齢を重ねていき、父たちが若い人を入れたいと思ったときにタイミングが合い、この世界に飛び込んだ。

フォークリフトを駆使

 もともと活発な性格の真実さん。日々、現場でフォークリフトに乗り、バナナの整理作業をこなしている。「事務職から徐々に仕事に慣れてもらうつもりだった」という憲樹さんだが、「事務よりも現場が好きだった」という真実さんは、フォークリフトの免許を取得。現場でフォークリフトを乗りこなす姿はパワフルだ。

 真実さんについて「自分の子どもとは思えないとよく言われるほど、まじめでよく頑張っている」と評価する憲樹さん。仕事柄、取引先との付き合いも多いが、「彼女はお酒の席や、1年前から始めたゴルフを通してコミュニケーションができる。営業向きの性格」と太鼓判を押す。

 真実さんは父と同じ仕事に就いて共に行動することが多くなった。「父とは似ているところがたくさんあり、性格も合う」と話す。ゴルフを教えてもらったり、2人で一緒に飲みに行ったりするという。

 「仕事は人付き合いが大切。そういうところを父から学んでいる」と長年取引先を大切にし、人脈づくりに励む父の背中を見て頑張っている。

 「先代から40年続いた事業をつぶすわけにはいかない」と家業への思いを語る憲樹さん。おいと娘が中心になって、息の長い商売を続けてほしいと発展を願う。

 「20歳から10年間好きなことをやってきた。今はこの仕事をずっと頑張っていきたい」という真実さん。祖父や父、伯母の思いをしっかりと引き継いでいく。 

(坂本永通子)





プロフィール

たから・のりき
 1959年生まれ、那覇市出身。沖縄県青果物卸商事業協同組合理事長。有限会社沖縄燻蒸代表取締役。沖縄工業高校卒業。沖縄大学卒業。1985年有限会社沖縄燻蒸入社、2000年代表取締役に就任。2005年には沖縄県青果物卸商事業協同組合理事長。同組合は現在7社が加入。私生活では4人きょうだいの長男。2人の娘を持つ父親

おなが・まみ
 1984年生まれ。那覇市出身。2人姉妹の長女。興南中学校卒業。興南高等学校卒業。高校卒業後にアメリカ・カリフォルニア州に8カ月間語学留学。事務関連、イベント企画会社や飲食店勤務などを経て、2014年沖縄県青果物卸商事業協同組合に入社。2015年に結婚。フォークリフトの免許所有

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高良 憲樹さん 翁長 真実さん
翌日の出荷を待つバナナの前に並ぶ高良憲樹さんと長女の翁長真実さん。創業当時から変わらない輸入元のデルモンテや販売先の企業など、長年の付き合いに支えられているという=那覇市港町の沖縄県青果物卸商事業協同組合 
写真・村山 望 
高良 憲樹さん 翁長 真実さん
(左から)仲西弘文さん、仲西加代子さん、翁長真実さん、高良憲樹さん。親族4人を中心に8人の従業員を抱える。後ろに見えるのが輸入された青果を消毒処理する燻蒸倉庫
高良 憲樹さん 翁長 真実さん
東京ディズニーランド(千葉県浦安市)に家族で行った時、記念撮影をする憲樹さんと真実さん
高良 憲樹さん 翁長 真実さん
フォークリフトで積み込み作業をする真実さん。素早く確実に運搬する
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