「表紙」2021年09月23日[No.1898]号
集落の歴史と文化伝える米作り
古くは『おもろさうし』にもその名が登場する恩納村の安富祖集落。琉球の名山、恩納岳を臨む風光明媚な土地だ。集落に隣接する水田では、昔から米作りが行われてきた。収穫された米は従来、自家用に消費されていたが、その味の良さが評価され「あふそ米」として認知度が高まっている。米作りと地域活性化に情熱を注ぐ、安富祖生まれの4人のキーパーソンに話を聞いた。
8月下旬の恩納村安富祖。国道58号を少し外れ集落に入ると、水をたたえた田んぼが広がっていた。植え付けたばかりのイネの苗が、強い日差しの下、青々と育っている。ここで栽培されているのは「ちゅらひかり」という品種のイネ。「あふそ米」という名でブランド化を目指している。
シニア世代が活躍
県内での米作りは、年2回の植え付けと収穫ができる二期作が主流となっている。毎年3月頃植え付けし8月に収穫をするのが一期目。二期目は8月から11月頃までだ。
田んぼを眺めながら「台風など自然災害がなければ良いね」と話すのは、JAおきなわ恩納支店水稲生産部会会長の當山好夫さん。今年80歳の當山さんは、米農家歴は約20年。専業農家になったのは定年退職後だが、幼い頃から両親の田んぼを手伝っており、経験は誰よりも豊富だ。手作業で田植えや稲刈りを行っていた戦前の米作りを知る人物でもある。今年の収穫でも、天候不純で機械を使えなかった水田(300坪)を「4日かけて手刈りした」というから驚きだ。
「あふそ米は風味と粘りがしっかりしています。冷めてもおいしさが変わらない点も特長です」
そう教えてくれたのは、金城啓さん。高校教員を退職後、地元で米作りに注力している。
生産者は減少しているものの、村内で唯一、稲作を続けている安富祖集落。現在まで続いてきたのは、恩納岳周辺から流れ出る豊富な水と、住民同士が助け合う「ゆいまーる」の精神が根付いているためだろう、と金城さんは分析する。
米作りを未来へ
米作りの歴史は長いにも関わらず、安富祖の米が「あふそ米」として知られるようになったのは近年のことだ。理由は、米が家族・親戚など身内だけで消費されていたことにある。作付け面積の減少や農家の高齢化を背景に、米は商品作物ではなく「家族で楽しむもの」 という位置付けになっていた。
流通こそしないが、家族のために作られる米のおいしさは確かだった。これを広めたいと思い立ったのが、恩納村「おんなの駅」の農産物直売所「なかゆくい市場」に勤務する當山正義さんだ。生産量は少ないあふそ米だが「食べてもらえば、安富祖の豊かさを伝えるメッセージになる」となかゆくい市場への出品を農家に呼びかけた。そのもくろみは当たり、販売開始後から、購入者らの口コミやSNS発信で好評に。出品してもすぐに品薄、という状況も続くようになった。金城さんはそれを見て、米が話題になれば、高齢の生産者が農業を続ける「生きがいになる」と確信したという。
脈々と受け継がれてきた米作りは、転換期を迎えている。
現在、安富祖区区長の松崎正也さんは、次世代の担い手育成に取り組んでいる。そのノウハウを記録しようと、上の世代の生産者に聞き取りを行っている他、豊年祭やウガン(拝み)など農業と関連する伝統行事の継承にも熱心だ。加えて、米の精米や加工品生産を区内ですることで、雇用を生み出すという構想もある。
地域の歴史と文化の屋台骨である米作りをどのように受け継いでいくか。その役割を担う當山正義さんと松崎さんは「今が一番大事なとき」と話してくれた。
あふそ米は、8月と11月の収穫後になかゆくい市場に出品される。店頭で見かけた際はぜひ手にとって、その風味を味わってみてほしい。
(津波 典泰)
〈問い合わせ先〉
おんなの駅 なかゆくい市場
恩納村仲泊1656-9
☎︎ 098-964-1188
Instagram @onnanoeki
※23日(木)はあふそ米を少量 入荷予定です