「表紙」2021年11月04日[No.1904]号
手話に情熱注ぐ高校生たち
青春は、手話―。真和志高校手話部のメンバーは、曲のリズムに合わせながら歌詞を手話で表現する「手話パフォーマンス」に情熱を注ぐ。「手話」をまるでダンスのようなエンターテインメントに昇華することで、耳が聞こえない人にも“リズムが見える世界”を作り出している。「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」で大会史上初の連覇も果たした強豪校でもある真和志高校。部員のみなさんに、手話の魅力を聞いた。
手話部は現在、新チーム体制となり1年生5人、2年生4人が在籍する。練習場所である放課後の教室に入ると、にぎやかな音楽が飛び込んできた。ガムをかむ青年の歌詞から始まるBEGINの「国道508号線」だ。外部コーチの福満裕子さん(63)は「昔はガムかんでいたらカッコいいみたいな時代があったわけさー」と、当時の時代背景も込みで説明する。「歌を通して沖縄の文化や歴史も伝えていきたい」との思いからだ。
手話で歌詞を表現
手話では、指文字で50音を表したり、特定の動作で名詞や動詞などを表したりする。それでは、「国道508号線」の歌詞に出てくる「国頭街道」のような特定の地名などはどのように表すのだろうか。部長の玉木杏有深さん(普通科2年)に教えてもらった。
まず「国頭街道」を「国」「頭」「街道」に分割する。そして、両手でひし形を作って左右に引っ張るような動作で「国」を、頭を手のひらで直接触って「頭」を、“小さい前ならえ“のような動作で「街道」をそれぞれ表現し、漢字とセットにすることで一つの熟語を成立させる。漢字文化圏でもある日本語に特徴的な手話ともいえる。
手話部ではほとんどの部員が高校生になってから手話に関心を高めていったという。玉木さんは中学時代にバドミントン部だったが、高校入学後の部活動紹介で大会の動画を見て「楽しそう!」と魅了された。小6から中2にかけては学校外でダンスを習っていたこともあり、もともと音楽に合わせて体を動かすことも好きだった。
「ろうあ者の方と話せるのが一番の手話の魅力です」と話す玉木さんは、9月から始めたコンビニでのアルバイトで初めて手話を活用することができた。何かを探している様子のお客さんに声をかけたところ、ろうあ者の方だったため手話で話しかけたという。「(相手は)ビックリしていました」とうれしい驚きを生んだ。
家族のような絆
入部のきっかけがSNSだった生徒もいる。名嘉真百葉さん(みらい福祉科1年)は中2の時にショート動画投稿アプリ「TikTok」で見た、歌に乗せて手話をする動画に強く感銘を受けた。部員の中では珍しく、入学前から手話に関心を持っていた。好きこそ物の上手なれで、50音の指文字を人よりも早い1カ月ほどでマスターした。「(学科の)実習先で聴覚障がい者の方と会ったら、今まで習ってきた手話を生かして交流して、自分の視野も広げていきたいです」と今後の目標を据える。
宮城凜太郎さん(同2年)は、中1の時母親と「手話を習いたいな、良いよね」と話していたことから、手話部のある真和志高校に進学先を選んだ。全国大会に出場できることも「手話部にいることを誇りに思います。いろんなイベントに出たいです」と積極的だ。「人の世話をするのが好き」という宮城さんは将来、福祉や医療の世界で活躍することを思い描いている。
部員たちの外部コーチであり、お母さん的存在が「ゆうゆ」の愛称で親しまれる福満裕子さんだ。20年以上、真和志高校手話部の生徒たちを見守ってきた。そんな真和志高校の “子どもたち“も、一番上は38歳になった。「教え子たちが『(テレビや新聞を)見たよー』って喜んでくれるんですよ」と笑う。
「みんな、手話が好きだから部活に来ているんですよ。本当に、部員同士で家族のような絆ができています。私の子どものような感じです」と福満さんは満足そうにほほ笑んだ。
(長濱良起)