沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1947]

  • (金)

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「表紙」2022年09月01日[No.1947]号

アダン葉帽子未来につなぐ
糸数弓子さん

「編みたい」思いが原動力に

 沖縄に自生しているアダンの葉で作られたアダン葉帽子。1世紀前の沖縄では産業化され、数多くの 製造所も存在した。手間暇かけて作られた帽子は、本土の企業を通じて欧米などに輸出されていたもの の戦後は衰退。帽子の存在を知った糸数弓子(45)さんは技術を知る人を探し出し、編み方を習得した。 製作や講座などを通して、その帽子の技術などを伝えている。

  「琉球パナマ帽」とも呼ばれていたアダン葉帽子。かつては 欧米などに輸出され、泡盛と 黒糖に次ぐ沖縄の3大産業の 一つだった。糸数弓子さんは、戦 後途絶えかけたその帽子に魅 了され、技術を習得した数少 ないアダン葉帽子作家だ。

 糸数さんがアダン葉帽子の 存在を知ったのは11年前。第3 子出産後の育休期間中に参加 した県内の経営者らによる勉 強会でのことだった。小さい頃 からもの作りが好きだった糸 数さんは「ただ編んでみたいと いう気持ちがスタートでした」 と振り返る。県内の博物館を 回り、文献を探し回っているの を見た母から、祖母が「ボウシ クマー(帽子を編む人)」だった と聞いた。

伊江島に通い技術を習得

  編みたい思いがますます 募った糸数さん。「最初に話を 聞いた 10 日後には伊江島に 渡っていました」という。伝統の 技法を受け継いだ当時 79 歳の 大城ナツさんに会うためだ。連 絡先も住所も知らないまま名 前だけを頼りにタクシーに乗ると、幸運なことに自宅までた どり着くことができた。何年 も前に村のお年寄りから受け 継いでほしいと技術のみを習っ ていた大城さん。編み手として は活動していなかったため、本 を参考に思い出しながら教え てくれた。その本は、本土出身 の加藤和子さんがアダン葉帽 子のことを知り、残しておきた いと編み方を自費出版で発行 したもの。本作りを一緒に手 伝ったのが大城さんだったとい う。糸数さんは生後約半年の 乳児を抱きかかえ、休日に始 発便のフェリーで伊江島に渡 り、最終便で帰ってくるという 生活を半年間繰り返した。

 すべての工程を1人で行って いる糸数さん。編み始めるまで の下処理に約1カ月かかると いう。アダンの葉を収穫し、葉 のトゲを取り除き、湯がいてか ら丸1日ほどシークヮーサー につけて漂白。その後、天日干 しで乾燥させ、1回水に戻して 縦に裁断して糸状にする。そこ からようやく編み始めること ができるのだ。「作業自体は苦 ではなく楽しい。作るまでが大 変なので、編むのはごほうびみ たいなもの」と話す。糸を使わず、材料は葉だけしか扱っていな い。軽くて涼しいのが特徴だ。

 アダン葉帽子は1900年 初頭に寄留商人の片山徳次郎 氏が帽子製造場を設立し、竹 細工職人の平安名盛文氏と共 に編み方を考案したのをきっ かけに、県全域に業者が増えて 発展を遂げた。途中からは、安 価な代替品の紙燃(こより)が 主流となった。沖縄戦でアダン が焼失したり、作り手がいなく なったりして、衰退の一途をた どっていった。

技術を伝える活動も

 糸数さんはアダン葉帽子作 りの講師としても活動を行っ てきた。大城さんから技術を学 んだ5年後には、伊江村教育 委員会主催の講座で教える機 会にも恵まれた。伊江島の人が 熱心に糸数さんの元に通い開 催が実現したという。今度は教 える側として伊江島に渡り、3 年間で4期にわたり講座を実 施。 60 人以上に教えた。「(大城) ナツさんは、本当は伊江島の人たちにやってほしいとずっと 言っていたので、恩を返せるい いチャンスだと思いました」。受 講生たちは糸数さんが伊江島 で受け継いだアダン葉帽子を 大事に思ってくれたとい う。「講座をきっかけに盛んに なって、大切に温めてくれまし た。技術の高い人たちがあちこ ちで活動し始めていて、どんど んやってほしいと言っていま す」と発展していくことを願っ ている。

 「いつか沖縄でみんなが普通 にかぶる帽子になってくれた ら。これからも残っていってほ しいです」と語る。受け継がれ た技術と思いとともに帽子を 編み続けていく。

(坂本永通子)



商品などの問い合わせ・注文は糸数さんメールまで
yumiko.itokazu@gmail.com

※その他店舗でも商品の見本展示・注文受け付けあり
りゅう(雑貨店) 読谷村古堅191
☎ 098-989-4643(9月31日まで休業)



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糸数弓子さん
アダン葉帽子を編む糸数弓子さん。アダン葉の収穫から成形 まで、全ての工程を1人で行っている。現在はオーダーメード で帽子を製作している=宜野湾市野嵩の自宅作業所 撮影:村山 望
糸数弓子さん
タカラガイで磨くことで、凹凸がなくなり、つやが出る。 タカラガイは糸数さんの祖母が使っていたもの
糸数弓子さん
完全に乾く前に、葉の表が内側になるように巻きつけ る。クセと反対に巻くことで、編むときに真っすぐにし やすくなるという
糸数弓子さん
木箱や傘の骨な ど、昔ながらの 道具を使用して いる
糸数弓子さん
葉の繊維を裂く カッターは手作 り。希望の細さ に調節できる
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