「表紙」2022年10月13日[No.1953]号
創業64年の町の写真館
卒業証書を手にジャンプする高校生、バットやグローブを持ち、ポーズをとるソ フトボール部の仲間たち……。与那原町にある日光写真館には生き生きとした写 真が飾られている。同館はスタジオ撮影のほか、ロケーション撮影、出張撮影な どを手掛ける創業64年になる町の写真館。モデルの個性を引き出す写真が好評 だ。創立以来、人生の節目をレンズ越しに見守ってきた。
日光写真館は1958年 に、先代の故・仲嶺真盛さんが 創業し、息子の真弥さん(57)へ と受け継がれてきた。6人きょ うだいの末っ子で長男の真弥 さんは、当初は写真に興味は なかったという。
真弥さんが写真の道に進ん だきっかけは「目標がなかった ので、自然の流れで」と笑う。高 校3年生になり、進路を決め かねている時、父・真盛さんに 『やることなかったら写真の学 校に行ってみるか』と遠慮しな がら言われ、神奈川県の写真の 大学に進学した。
卒業後は内地で修行してい ずれ戻ればいいと考えていた 中、大学2年生の時に状況が一 変。写真館を支えていた母親の ヨシさんが58歳の若さで他界し、父親も体調を崩してしまう。
「いきなり崖から落とされた ようだった。考える暇もなく、 大学を卒業後に働き出した」。 しかし、大学で学んだのはカメ ラの仕組みやフィルムの構造な ど、物理化学系の内容。撮影の 経験もほとんどなかった。父親 も母親の死後から3年後に 61歳で他界したため、撮影技術 は県内の同業者に頼み込み、習 得した。父の代からのスタッフ や一緒に働いていた姉たちにも 支えられたという。「苦労はあ りすぎて忘れた(笑)」という真 弥さんだが、支えてくれた人た ちの「恩は忘れることはない」
動きのあるスタイルを確立
「動きが得意な写真館」とう たう日光写真館。そのスタイル の原点は2007年、中学の 仲良しグループの高校卒業記 念写真だ。撮影の際、店内に あったティアラを頭に着けたり する自由な姿を見て、「この子 たちの個性を殺したくない。こ の子たちらしさをそのまま撮 りたいと思った。結果的に動き のある写真になった」という。 ちょうど、これまで使っていた 大きいカメラに代わり、手持ち で動きながら撮れるデジタル一 眼レフカメラを導入した時期 とも重なった。真弥さんが撮影 した写真は、業界の写真コンテ ストで多数受賞するなど、県 内外で評価を得た。
3年前からは次男の真揮人さん(30)が東京で修行を積ん だ後、写真館に加わった。3代 目としての覚悟を持って精進 している。バンド活動や看護師 を経ての転身だ。初めはカメラ に全然興味がなかったが、「実 家が写真館なのにカメラを 触ったことないのは恥ずかしい と思い、1回だけでもと体験し たら、はまってしまった」とほほ 笑む。真揮人さんは今年挑戦 した業界の写真コンテストで 受賞。その作品は父のように動 きのある写真だ。父・真弥さん は「彼の新しい発想は殺さない ようにしていきたい」とこれか らの活躍に期待する。
撮影はコラボレーション
「撮影はモデルとカメラマンの コラボレーション。カメラマンが 一方的に撮るものではない」と 話す真弥さん。被写体の協力 があってこそだと実感してい る。撮影時は「お客さまには、い つも感謝の気持ちと精一杯の 笑顔を大切に、やさしく接す ることを心掛けている。そういう思いが伝わらないと相手も 協力してくれないと思うし、そ れがかみあったときに両者がシ ンクロしてくる」と考える。
「お客さまが喜ばれたとき、そ れが何よりもうれしい」と語る 真弥さん。「結果として最高の 写真を形に残したいというの はもちろん、それ以上に撮影の 過程を大事にしたい。撮影して 楽しかったと言われるのが一番 の商品」だという。
「一人一人のお客さまを大切 にして、子どもができて孫がで きてというふうにずっとつな がっていきたい。信頼され、裏切 らない写真館として満足して もらえれば」。家族や仲間との 最高の一瞬を求め、写真を撮り 続けていく。
(坂本永通子)
日光写真館
与那原町字与那原61-1
☎ 098-946-2351
営業時間:10:00~19:00
定休日:水曜・木曜
https://nikkophoto.com/