「表紙」2023年03月16日[No.1975]号
造形や窯焚きの現場に密着取材
うるま市勝連平敷屋に「かっちん窯」を構える陶芸家・具志堅全心さん。50代から約25年 間、陶芸に打ち込み、技術を磨き続けている。力強い造形の作品たちはどのように生み出さ れているのか。レキオ記者が半年以上にわたり窯に通い、作業の様子を取材。自身のペース を大事にしながら、土をこね、炎を見つめる姿をリポートする。
独特のひねりが加わった壺、 手になじむ茶器や酒器たち。 眺めていると力強さや躍動感 が伝わってくる。具志堅全心さ んが手がける陶芸の作品は、焼 締めまたは南蛮と分類される もの。釉薬は使わず、土本来の 色と、登り窯内の偶発的な条 件がもたらす窯変の風合いが 魅力だ。
心おだやかに作る
50 代で経営していた水道工 事の会社を早期退職した具志 堅さん。約 25 年前、中城湾を見 渡せる勝連半島の土地に「かっ ちん窯」を開く。登り窯や作業 場などの建造はほとんど自身 で手がけたそうだ。特定の陶芸 家に師事したことはないが、 故・中川伊作さんや故・國吉清 尚さんの窯に通い、見聞を深め ていたという。窯を開いてから は、一人黙々と陶芸に打ち込 み、技術を磨いてきた。
土をこね、作品を造形する 具志堅さんは、「うん、うん」と 確認するようにつぶやくことがある。深呼吸に合わせて、手 や道具を動かすことも多い。心 おだやかに、平常心で作業する ことが、力強い造形を可能にし ているのだ。
「これ作るのが楽しいわけ よ」。そう満面の笑みで話すの は、龍の装飾を施した壺。実際 の生き物の角や牙を参考に造 形し、細部を突き詰めている。 装飾が少ない壺と比べ、造形に かかる時間は2倍以上。焼成 がうまくいかないこともある が、一貫して作り続けている。焼 く度に造形を見直すことにも 余念がない。富士山を数多く 描いた北斎のように、作り続け ることで龍という題材を極め たい、と教えてくれた。
窯焚きを体験
工程のハイライトとなるの は、登り窯で7日間にわたって 行う窯焚き。期間中は火を絶 やさず、400度〜1250 度まで、徐々に火の勢いを上げ ていく。窯焚きは一人でこなす ことができないため、具志堅さ んは家族や知人らに依頼し、 交代で火の番をする。
1月に行われた窯焚きでは、 記者も1回6時間の火の番を 3日間担当した。薪として主に 使用したのはモクマオウの幹の 部分。1本の重さは数十㌔。薪 を窯の火口に差し込むだけで も重労働だ。
最初の数日間は、ゆっくりと 薪を燃やす。「窯の中を見てご らん」と具志堅さんに促され、 火口をのぞくと、薪からはぜた 火の粉が舞っていた。火の粉は 灰となり、窯内の作品に降り 注ぐ。窯焚き終盤、温度が10 00度付近になると、灰は溶 けてガラス質となり、作品に独 特の文様や色合いをもたらす 窯変が起こる。
窯変とは、登り窯内の温度 や炎が不均一であるために起こ る化学変化だ。作品の完成度 を左右するにも関わらず、作り 手の意図が及ばないため、無作 為の美として珍重されること がある。
火の番をしながら、窯の脇に 置かれた手彫りの不動明王を 造形や窯焚きの現場に密着取材 指さして、具志堅さんはこう 言った。
「あれは『欲と煩悩を捨てな さい』と言っているよ」
丹精込めて造形した作品 は、最後の工程を登り窯に委 ねて完成する。労を惜しまず、 失敗を恐れず、力みすぎずに陶 芸に向かうことで、想像を超え た作品に出合える│。具志堅 さんの言葉には、そんな意味が 込められていると感じた。
後日、窯変の質感と手仕事 の技を凝縮させた作品たちが 窯から取り出された。仕上が りを確認すると、具志堅さん はあまり日を置かず、また新し い作品に取り掛かる。
作業する後ろ姿から、継続 して取り組むことの大切さが ずっしりと伝わった。
(津波 典泰)
かっちん窯
うるま市勝連平敷屋864
☎090-3199-0396
※電話は日中のみ。作業
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や、不在の場合もありま
す。十分なゆとりを持って
訪問していただくようお
願いします。
写真・村山 望