「表紙」2023年06月15日[No.1988]号
ありとあらゆる「沖縄」写した集大成
沖縄の島々を巡り、そこに暮らす人々を撮り続け、「南方写真師」の肩書を持つ写真家・ 垂見健吾(たるみ・けんご)さんが、4月25日に『めくってもめくってもオキナワ』(コントマ ガジン刊)を出版した。重量1.3㌔、576ページもあるこの写真集には、垂見さんが沖縄を 撮り始めた1973年から2023年までに撮影した写真が収められている。まさに南方写真 師の集大成となる一冊だ。
開口一番「ハイサイ!」と笑う 垂見さんは1948年、長野県 出身。写真家の山田脩二氏に師 事し、「文藝春秋」のカメラマン を経て、 30 代で独立。スポーツ 誌「Sports Graphic Number」 や南西航空(現・JTA)の機内誌 『Coralway』の創刊から関わっ てきた。
初めて沖縄に来たのは本土 復帰直後の 73 年。以来、さまざ まな仕事を通じて沖縄に足を 運ぶことになり、 85 年に沖縄移 住を決めた。
空気感を切り取る
自らを「おじぃ」と呼び、周囲 からも「タルケンおじぃ」と慕わ れている垂見さんの周りには 常に笑いが絶えない。そんな垂 見さんの撮る写真は、自然体 の人々の生活が写し出されて いる。
写真を撮る時に意識してい ることは「その場所の空気感を 切り取ること」だと垂見さんは 語る。
「牧志のまちぐゎーによく 撮りに行ったんですけど、最初 はぜんぜん撮らせてもらえま せんでした。売ってる人も買い に来ている人もアンマーだか ら、男の人がいないわけですよ。 そのうちに『なにしにきたわけ か?』って言われて『写真撮り に来た』って言うと『写真なん て魂取られるからいやだ』って。 そんな時代だったんですよ」
仕事での撮影のため、どうし ようかと悩んでいた垂見さん の前に現れたのがシシ屋のアン マーだったという。
「シシ屋(肉屋さん)のアン マーが『あのね、いい言葉がある んだよ。ハイサイ、って言いなさ い。うちなーぐちだから、言わ れた方は聞くと安心するよ』っ て言うんです。それから『ハイサ イ』と言ってパチリと撮るよう になりました」
それ以来、魔法の言葉として 今でも垂見さんはカメラを構 える前に笑顔で「ハイサイ!」と 声をかけている。
「沖縄の人の優しさというか 情というかを、伝えていただき ましたね」
沖縄への感謝
『めくってもめくってもオキ ナワ』は構想5年。垂見さんが 初めて沖縄に足を踏み入れた ありとあらゆる「沖縄」写した集大成 50 年前から今に至るまでの何 百万枚ものポジフィルムと、デ ジタルカメラに移行してからの 写真データの中から、垂見さん が3000枚ほどセレクトし、 そこから編集者とデザイナー が500枚弱に絞った。
50 年近く撮影していると、 当然ながら機材も変遷する。 『めくってもめくってもオキナ ワ』を制作する際には、県内で 活躍する写真家数名の協力の 下、フィルムに光を当てて投影 し、デジタルカメラでそれを撮 影(複写)する手法を用いた。
文字通り山のような写真を セレクトし、どうやって流れを 見せていくか。苦労したが、同時 にそれが楽しかったことでもあ ると、垂見さんは言う。
昨年 10 月から出版のための クラウドファンディングをス タートさせ、1カ月ほどで目標 金額を達成した。多くの人た ちの支援があり、当初の予定よ りもページ数を増やしたとい う。製本には、180度開ける コデックス装という様式を採 用しており、隅々まで写真を見 ることができる。また、質の違 う紙を4種類使用しているな ど遊び心にあふれているのも 特徴だ。沖縄の自然、人、文化 など、記録的にも貴重な写真 や、沖縄の人なら懐かしい写真 も多く含まれた500ページ 超の写真集は見応えたっぷり。 まさに、めくってもめくっても オキナワだ。
出版に対し、「受け入れてく れた沖縄の島々、人々、沖縄の 風景に感謝しています。それが なかったらきっと写真はたまっ ていなかったと思います」と垂 見さんは振り返る。
垂見さんの沖縄写真 50 年の 集大成であると同時に、この先 も残したい沖縄の風景が収め られたアーカイブ的一冊。ぜひ、 じかにめくって体感してほし い。
(元澤 一樹)
垂見健吾 写真集『めくってもめくってもオキナワ』
(8800円)
発売元・コントマガジン
ジュンク堂書店那覇店、リブロリウボウブックセンター店、市場の古本屋ウララ他、県内の書店で販売中
7/30、11:00から浦添市美術館にてスライドトークショーを開催。入場無料。
予約・問い合わせ:098-879-3219
撮影・Nagi (チーム・めくっても)