「表紙」2024年03月07日[No.2026]号
役割や居場所が個性をもっと輝かせる
就労継続支援事業B型、生活介護事業を展開する「社会福祉法人 若竹福祉会」。利 用者に多様な生産活動の場を提供している。農作物栽培もその一つだ。畑で作業に取り 組む利用者の様子を取材。一人一人のより良い役割や居場所を作ろうと奮闘する、職員 たちの仕事も知ることができた。
1月下旬、西原町池田に ある約600坪の畑に利用 者と職員ら計 25 人が集まっ た。この日の主な作業は、ニ ンジンとジャガイモの収穫だ。
作業への向き合い方は人そ れぞれ。大まかな流れはあっ ても、これをしなければなら ない、という決まりはない。見 落としてしまいそうな小さな ジャガイモを大切に拾い集め る人、二股に分かれたニンジ ンなど不ぞろいの作物に名前 を付ける人。どの利用者も 表情豊かで、作物や土に触れ る喜びも伝わってきた。
できることを広げる
収穫した作物は、利用者 たちが昼食をとる「社会就 労センターわかたけ」内の食 堂と、同法人が経営する「カ フェめしギャラリーさまさま」 (沖縄県総合福祉センター内) で食材となる。2カ所での調 理、サービスに携わるのも利 用者たちだ。
この他、利用者たちは、公 園の清掃や草刈り作業、同 法人が製造販売する「平輪(へ いわ)ちんすこう」の工場な どにも従事する。就労支援や 生産活動は、収益をあげる ことが第一目的ではない。大 事なのは「一人一人ができるこ との幅を広げること」。サー ビス管理責任者の瀬底英隆 さんがそう教えてくれた。
少しずつ共に歩む
「彼の作業を見てほしい。 すごいことなんです」
1週間後、畑を再訪する と瀬底さんがある利用者を 紹介してくれた。前回は見か けなかった男性だ。名前はY さん(仮名)。強度行動障が いがあり、同法人のグループ ホームで生活している。会話 でのコミュニケーションは難し く、大人数の中で過ごすのは 苦手。少人数で慣れたメン バーと行動できる時に畑に来 ることが多いそうだ。
Yさんが取り組むのは、プ ランターに落ち葉や刈り取っ た草を入れて運ぶ作業。肥 料を作るために畑の一角に集 めている。一度に運ぶ量は多 くない。数十㍍の動線を何往 復もする姿が印象的だった。
同法人を 20 年以上利用す るYさんだが、自ら作業でき るようになったのは最近のこ とだ。彼になじむ役割は何か |。複数の職員が向き合って も、理解を深めるのに時間が かかったと瀬底さんは明か す。長い長い道のりを経て、 あの作業があるのだ。現在で は、畑での時間が生活にメリ ハリをつけ、Yさんの行動や 情緒面には落ち着きが増し ているという。
「Yさんには、言葉だけで なく表情や態度でも『あなた を必要としている』と伝える ことを欠かしません」
そう話す瀬底さん。人は 自らの役割や居場所を認識 することで、充足感を得た り、穏やかな暮らしができる。 支援の現場を支えるのは、他 者と分かり合うことをあき らめない意思だった。
(津波 典泰)
社会福祉法人 若竹福祉会
浦添市前田998‐3
☎098‐877‐0664
写真・津波典泰