「表紙」2024年09月05日[No.2052]号
沖縄をSUPの聖地に
SUP(サップ)は、スタンドアップパドルボードの略。水面に浮かぶボードの上に立ち、1本のパドルを 漕(こ)いで進むウオータースポーツだ。近年、初心者でも簡単に楽しめるレクリエーションとして人気を 集める一方、スピードや技術を競う競技も盛んに行われており、2032 年のオリンピックでは、種目入りも 期待されている。名護市安部で生まれ育った18 歳の荒木珠里さんは、16 歳でSUP の史上最年少 世界チャンピオンに輝いたトップオーシャンアスリート。日本、そしてアジアで、過去にSUP で世界の王座 に輝いた人は他にいない。その圧倒的な実力は、今、世界から注目を集めている。
「記憶にない頃から海で毎 日遊んでいました」と笑顔で 話す荒木珠里さん。
生まれ育ったのは名護市 安部。母方の祖父は地元のウ ミンチュで、珠里さんも物心つ いた時から、家のすぐそばに ある浜を遊び場にしていたと いう。
父・汰久治さんは、国内外 でカヌーやライフセービング、 SUPの経験を積んだマリン スポーツの達人。糸満市から、 星や太陽で方角を確認しな がら、人力でサバニを漕いで約 2千㌔先の愛知県まで航海 を成し遂げたこともある。ハ ワイの友人から、当時日本で 全く知られていなかったSU Pを知り、折りたたみ式の ボードをリュックに詰めて沖 縄へ運んだところ、6歳の珠 里さんが興味を示し、すぐに SUPでミジュンを取って遊び 始めたと振り返る。
波と風を読む力
小学2年で競技としてS UPに取り組み始め、国内外 のレースへの出場を開始した。 たちまち優れた才能を発揮 し、小学3年の時に全日本S UP選手権大会小学生部門 で優勝。小学5年にはPacific Paddle Games世界選手権 (USA)9‐ 11 ユースで総合 優勝を果たし、沖縄県から児 童生徒等表彰を授与。
その後も国内外の大会で 飛び抜けた実績を残し、高校 入学と同時にプロ活動を開 始する。高校1年でISA世 界選手権の史上最年少 16 歳 世界チャンピオン、史上初の2 冠に輝く。翌年も同大会で二 連覇二冠という前代未聞の 快挙を達成した。今年のSU P世界ユーロツアー2024 年でも史上初の4戦全勝、総 合優勝を果たし、その勢いは とどまるところを知らない。
体格と筋力では、年上の国 外の選手のほうが当然上回 る。朝晩の練習に励むほかに は、機械的な筋トレも行わな い。にもかかわらず、珠里さん は世界大会で圧倒的な強さ を見せる。その強さの秘密 は、波と風を読む力にある。
「僕の場合、幼い頃から野 性の力を磨いてきたので、波 や風、目に見えない自然の動 きを予測して、味方につける ことができます」
さらに、毎日の練習の中で 身に付けた独自の体の動き、 そして父から指導を受け磨 かれた精度の高い技術が武 器だ。普通、ターンを行う際に は左右どちらかの利き足を 軸とするが、珠里さんは両足 を同じように使ってターンで きる。二人三脚で成長を見 守ってきた汰久治さんは「こ の野性の能力と動きができ るのは、世界でも珠里だけ」 と話す。
金メダル見据え奮闘
「リーフに囲まれた沖縄 は、SUPをやるには最適の 環境なんです」と汰久治さ ん。リーフ内では波が静かな 環境、外洋では波と風が強い 環境があり、さまざまな状況 に対応する力を身に付ける ことができるのが利点だ。現 在SUPの競技が盛んなヨー ロッパでは、湖や河川を練習の 場とすることが多いため、波 を読む力が磨きにくいという。
珠里さんの活躍によって、 国外の選手も沖縄のアドバン テージに気付き始め、汰久治 さんが代表を務めるKANA KA沖縄へ国外の選手が短期 留学に訪れることも出てきた そうだ。「ゆくゆくは、沖縄を SUPの聖地にしたい」と珠里 さん、汰久治さんは意気込む。
休むことなく挑戦を続け、 今月末は韓国遠征、そして 11 月末にアメリカで開催される 世界大会のICF世界選手 権では、前代未聞の3年連続 世界制覇を狙う。
その先に見据えるのは、2 032年に種目入りが期待 されるブリスベンオリンピッ ク。現在日々一緒に切磋琢磨 する小学5年生の妹・夏南風 (かなか)さんと共に、金メダ ルきょうだいの誕生を期待し たい。
(日平 勝也)
KANAKA沖縄公式サイト
写真・村山 望