「表紙」2024年10月03日[No.2056]号
琉歌で歴史的しまくとぅばを継承
琉歌は「サンパチロク」と呼ばれる八・八・八・六の30 音の基本形式を持つ抒情歌で、 音楽や舞踊とともに発達したといわれている。那覇市首里公民館を拠点に活動している 「波上(なみのうえ)琉歌会」は、琉歌を通じてしまくとぅばの歴史的(古語)表記の継承に 取り組んでいるサークルだ。結成60 周年を迎えた今年、その活動と今後の展望について 現会長の前原武光さんに話を聞いた。
波上琉歌会の結成は本 土復帰前の1964年。首 里で活動していた「首里望 月会」と、具志川市(現・う るま市)で活動していた「具 志川琉歌会」が合流して結 成したという。
波上琉歌会では、歴史的 (古語)表記の継承を目的 に、古語を用いた琉歌づく りに取り組んでいる。歴史 的表記とは、那覇市首里方 言を中心とした琉球古典 音楽や芸能で用いられる表 記のこと。例えば、祝儀芸能 で有名な「かぎやで風」を 「かぎやでふー」ではなく「か じゃでぃふー」と読むなど、 その工工四の歌詞の表記と 読みには大きな差異があ る。そのため読み書きには専 門的な知識を要するのだと いう。
「現代表記だけでは沖縄 のことは詠(よ)めないと思 います。古くから伝わる琉 歌や古典音楽の歌詞などは すべて歴史的表記ですから、 古語を継承することは沖縄 のちむぐくる、思いを伝え ることにもつながります」と 前原さんは語る。
意見交換の場として
現在、波上琉歌会には 60 代から 80 代までの 17 人が所 属。月に一度の定例会では、 会員が作った琉歌を全員で 読み、添削を行っている。実 際に定例会の様子を見てみ ると、歌の内容やしまくとぅ ばの表記について、会員から さまざまな意見が飛び交 う。白熱するあまり、討論の ようになることも少なくな いという。
「重要なのはお互いの意 見を忌憚(きたん)なく交換 し合うこと。年上の人だか らといって遠慮せずに、疑問 があれば投げかけてみんな で確認していくように呼び かけています」
メンバー全員が琉歌の作 り手であり読者。それゆえ 定例会は、たくさんのしま くとぅばや表現に触れなが らより良い歌を生み出すた めの学びの場となっているよ うだ。しかし、歴史的表記の 難しさから、若者の参加率 の少なさが課題だという。 「もっと若い方に来てほしい ですね。初心者は普段の日 常会話で使っている言葉で 琉歌を作って、定例会で手 直しすることもあります。 次第に歴史的表記に慣れて いくのが大切です」と前原 さんは呼びかける。
15年ぶりに琉歌集の刊行
最後に、前原さんに琉歌 の魅力について聞いてみた。
「琉歌を学ぶと、歌三線 などの歌詞の理解にもつな がると同時に、自分の思い や気持ちを詠んで表現でき るようになります。自分の 視野を広げる意味でも良い ですし、琉歌会での交流を 通して、昔のことをいろいろ 想像したり、新しい言葉を 知るきっかけになるのも大 きな魅力です」
琉歌を通して、沖縄のち むぐくるや、先代の思いを 伝えている波上琉歌会。今 年結成 60 年目を迎え、 15 年 ぶりとなる琉歌集の刊行を 予定している。より多くの人 が琉歌に親しみ、歴史的表 記やしまくとぅばの面白さ を再確認するきっかけにな ることを期待したい。
(元澤 一樹)
波上琉歌会 定例会
開催日時=毎月第2土曜13:00~15:00
場所=那覇市首里公民館
問い合わせ
☎098-978-4724(前原)
写真・村山望