「表紙」2024年10月24日[No.2059]号
箸作り教室を通して食育を推進
大宜味村喜如嘉でシークヮーサーなどの木を使って箸作りをしている鈴木仁さん。使 いやすさを追求した「琉球箸」を開発し、木の剪定(せんてい)から成形、漆塗りによる仕 上げまで一人で行っている。箸作りと並行して開催しているのが箸作り教室。体験を通し た食育の普及にも力を入れており、心豊かな食事を楽しんでほしいと願いを込め、箸の 正しい使い方やマナーを伝え続けている。
箸職人の鈴木仁さんが作 る箸「琉球箸」は、持ち手の 部分にふくらみがあり、先 端部分の「食い先」が四角く なっているのが特徴だ。「手 の中で安定し、コントロール しやすい箸。食い先が四角い ので、一粒のお米なども確実 に挟むことができます」。仕 上げには、天然の塗料漆を 使用。安全で使いやすい箸 作りを追求している。
材料のメインはシークヮー サーの木。かんきつ系の樹木 は粘り強く、箸に適した木 材だという。チェーンソーやノ コギリを持って鈴木さん自 ら山に入り、協力農家の余 計な枝などを剪定(せんて い)させてもらっている。今ま で捨てられていた剪定木は 箸の材料に、小さな枝は箸 置きにするなど無駄なく活 用している。工房を「シー クヮーサーの里」として知ら れる大宜味村に構えたの も、地元農家の協力で安定 した供給があるから。週の 大半を住まいのある浦添市 から通っている。
趣味の箸作りの道へ
栃木県の米農家に生まれ た鈴木さん。 15 歳の頃から 実家の農業の手伝いをする ようになり、弁当を食べると きはカマやナタの刃で落ち ている木を削って箸を作って いた。約 45 年前に大学時代 から通っていた沖縄に移住 し、コンピューター会計システ ムの会社に長年勤務した。 2007年、 55 歳で退職す る時、妻の美智子さんの勧 めで趣味だった箸作りの道 へ。箸製造が盛んな福井県 などを訪れ研究を重ね、仕 上げの漆塗りの技術も習得 した。そうして開発したの が誰にでも使いやすい「琉球 箸」。2008年に名護市で 開かれた主要8カ国(G8) 科学技術大臣会合では、県 公式プレゼントにも採用さ れた。
鈴木さんが箸作りととも に精力的に行っているのが 食育を推進するための箸作 り体験教室。イベントや学 校、市町村、山原工藝店(大 宜味村喜如嘉)などで開催 している。自分の手のサイズ に合った箸をサンドペーパー で削り形を整え、アマニ油を 薄く塗って仕上げる。体験 を通して、手入れ法も身に 付き、長く使うことができ るという。
心豊かな食事のために
「沖縄では子どもの8割 くらいが箸を正しく使えま せん。そのお父さん、お母さ んを見ると、同じようにで きないんです」と言う鈴木 さん。箸は食べ物を挟む、切 る、すくう、刺す、裂き開く、 押さえる、なでる、混ぜる、 引っかく、巻くなど、二本の 棒でさまざまな機能を果た す。良い箸で上手に箸使いが できれば、美しい作法も身 に付き、心豊かな食事がで きる――。体験教室では、箸 作りの合間に箸の使い方、 箸の機能、嫌い箸(NGマ ナー)なども伝えている。今 まで教えてきた人数は約1 万人。お箸の正しい使い方を 伝え、多くの人が忘れかけて いる「心豊かな食事の時間」 を広めていきたいと願う。
課題は後継者の引き継 ぎという鈴木さん。「(箸作 りは)私の生きがい。食育の ための箸作りを広めること が願いです。ノーベル平和賞 を狙えるんじゃないかと思っ ている。こんなこと言うと笑 われるんですけど、言い続 けています」と笑顔を見せ た。
(坂本永通子)
工房うるはし
大宜味村喜如嘉2130 ティコラボ会館内
TEL:090-6857-0133
営業時間:10時~16時
定休日:不定休※訪問の際は要事前連絡
https://uruhashi.ti-da.net/
※商品は、山原工藝店(大宜味村喜如嘉)でも販売
写真・村山望