「島ネタCHOSA班」2011年06月16日[No.1368]号
与那国で作られている泡盛は、正確には泡盛ではないと聞いたのですが、どういうことでしょうか?
(2011年06月16日掲載)
泡盛なのに泡盛じゃない!?
(宜野湾市Tさん 27歳)
今回は、これまた、頭脳があまり芳しくない調査員を混乱させる依頼が舞い込んできましたな。泡盛なのに泡盛ではない? どういうことか? ええい、どうせ考えても分かるまい。頭のよろしい人に聞~こ~おっと。
法律上では…?
ということで、以前お世話になった泡盛マイスター協会の喜瀬真三さんのもとへやって参りました。
「そうですね、おそらく『舞富名』や『どなん』などのことでしょう」
んん? 『舞富名』や『どなん』なら知ってますよ?
「酒質は泡盛なんですが、花酒と呼ばれているんですよ。ではなぜ、これらが泡盛ではないとなるのかと申しますと、酒税法上45度以下のものしか泡盛と表示してはいけないことになっているんです。花酒はアルコール度数が60度ありますから分類上では原料用アルコールになるんです」
はぁ~法律ですか。酒税法の影響で、泡盛ではなく原料用アルコールであると…ややこしい話ですねぇ。
「まぁ、そうですね(笑)原料や製法なんかは、泡盛と全く同じですからね。それどころか、花酒は、もろみを蒸留した時に、最初にとれるもので、純度の高い、非常に希少で、美味しい酒なんです。昔は与那国に限らず本島でも作られていたようですが、今は許されていません」
なるほど~言ってみれば一番搾りのようなものですね。では、ナゼその高級品が、今では与那国でしか製造が許されていないんでしょうか?
「それは、おそらく風葬が関係していると思います。くわしくは地元の方に聞かれるのが一番ですよ」
尊い酒「花酒」
むむむ、風葬かぁ。アカデミックな話になって来ましたな。どういうことなのか? さっそく、与那国島で酒を造って30年。入波平酒造の入波平浩伸さんに、お話を伺ってきました。
「風葬がというより、風葬を行うときに、必ず必要な洗骨の影響と言ったほうが正確です。洗骨の時にこの花酒を用いるんです。本島でも作られていたんですが、戦争で当時の酒蔵はほとんど焼けてしまいましたし、時代の移り変わりと共に、風葬自体が行われなくなってきて無くなってしまったんでしょう」
ふむ。そうだったんですか。
「与那国でも、復帰して2年ほどは酒税法の影響で、製造が禁止されていたんですよ」
え!禁止されてたんですか?
「はい。いきなりのことで、当時は憤りも感じましたよ。その地域に残る壮行の手段というのは、古くから大切に受け継がれてきた文化ですし、その地域の信仰や、人々の死に対する尊厳も関わってくることですからね」
尊厳にも関わる…。確かにそうですよね。死者を悼み、きれいに、無事に送り出してやりたいと思う心があるからこそ、弔うわけですもんね。
「ええ。実際、そう思われる方も大勢おられて、先達の皆さんのご尽力もあって、特例として認められるようになったんです」
火葬だとか風葬だとか、地域によってそのやり方は違うけれど、それを否定することなんて誰も出来ないですよね。想う気持ちは同じだし、故人にとってそれが必要なんですから。
「そうなんです。人を悼む。その気持ちの表れとして、『純』であり『希少』であり、『上等な』酒である、花酒が用いられたんでしょう。花酒に限らず、そもそも、お酒というのは神事に深く関わっているものなんですよ。与那国を出て本島で亡くなられたので、洗骨をしなくても、お墓に花酒を一緒に納めるという家も多いんです。また、ありがたいことに今では、単純に美味しい酒だということで全国各地にファンがおられるんですよ」
☆
う~む。泡盛と呼べない泡盛、そのウラには人間の、死に対する厳かな気持ちが隠れていた。 泡盛を飲んでは、ほろ酔い気分で楽しんでいる調査員にとって、お酒とは…と、考えさせられる今回の調査だった。
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