「島ネタCHOSA班」2012年07月26日[No.1426]号
本島南部に住む友人から、地域限定の水道があると聞きました。那覇に住んでいるので、どんなものなのか全く想像がつきません。詳しく調べてもらえませんか? (那覇市 30代・女性 2012年07月26日掲載)
地域限定 特別な水道!
この前、テレビで京都の学校にあるお茶が出る水道について放送していましたね。また、みかんジュースが出る水道があるとか、ないとか? 地域限定の水道ってどんなものなんでしょうか? 調査員も那覇出身なので、全く検討がつきません。沖縄らしくシークヮーサージュースや泡盛が出てくる夢のような水道があったらいいなぁ…。 と、現実逃避をしている暇もないので、南部出身者から情報を収集。糸満市に水が豊富な地域があるということで、早速、行ってみました。
約240世帯が使用
やって来たのは、糸満市大里。こんこんと水が湧き出る「嘉手志川(カデシガー)」がある集落です。琉球の三山分立時代、南山王がカデシガーと中山王の金のびょうぶを交換し、地域はたちまち水不足に陥り、南山は尚巴志に滅ぼされてしまったという伝説もあります。大里公民館の館長で大里区長の神谷栄信さん(62)に、地域限定の水道について聞いてみました。
「集落だけの水道、ありますよ。約290世帯のうち、約240世帯が使っています」。当たり前のように返事が返ってきました。しかも数が多い! 詳しく教えてください、神谷さん。
「はい。カデシガーから引いたこの水道は『簡易水道』と呼んでいます。1962年に工事が完了しました。当時の高等弁務官資金を活用して集落全体に引いたそうです。それまで井戸のない家庭は、カデシガーなど3カ所で水をくんでいました。水くみは子どもたちの日課だったんですよ。私は家の隣に井戸があったので、水くみには行きませんでしたけどね」
おぉ~! 沖縄がまだ米軍の統治下にあった頃の話なんですね~。「高等弁務官資金」は、地域に必要な緊急の事業を高等弁務官の裁量で承認し、援助したものだそうです。なんだか時代を感じます。
1996年に糸満市の上水道が完備されるまでは、学校や給食センターの水も「簡易水道」でまかなっていたそうです。
糸満市によると、市内には多くの湧き水がありますが、現在も各家庭に水道を引いて使用している集落は大里区以外は把握していないそうです。
「簡易水道」の水は現在、大腸菌が多く飲めませんが、花木への散水や風呂、トイレ、洗濯など飲料水以外で活用しています。同区民は、飲料水は「市の水道」、それ以外は「簡易水道」と賢く使い分けているそうです。しかも基本料金は8㎥まで500円。それ以上は1㎥に対し80円。市の水道料金の約3分の1という超お手頃価格。なんとうらやましい! 使用量は神谷さんと書記の二人でチェックし、料金は区に納められるそうです。
自然の恵みに感謝
とてもありがたい「簡易水道」ですが、水源のカデシガーの水はこれまで枯れたことがないそうです。全県的に降水量が少なく、市が上水道の節水を呼びかけた年も、「簡易水道」では給水制限や節水はありませんでした。「ガーの水量は減りましたが、枯れたことはないそうです。みんな助かっていますよ」
大里字史には、1963年の70数年ぶりの大干ばつの際もガーは枯れなかったと記録されています。当時は那覇などの給水車も水くみに来たという新聞記事が紹介されています。自然の恵みは本当にありがたいですね。
「昔は、飲み水としても問題なかったんですよ。小学校や給食センターでも使っていたんですから。環境の変化と共に水質も変わってきたのかもしれません。詳しい原因までは分からないですが」と残念そうに話す神谷さん。
「これ以上、水質が変わらないように、大切に守っていかなければいけませんね」と言うと、「責任重大です」と力強い返事が返ってきました。
◇ ◇
公民館からの帰り道、カデシガーに立ち寄ってみました。太陽の強い日差しとは裏腹に、ひんやりとした冷たい水が疲れを癒やしてくれました。 地域限定の水道はジュースや泡盛は出てきませんでしたが、集落の人たちの暮らしを守り続けている大切な大切な水でした。