「島ネタCHOSA班」2014年03月27日[No.1511]号
小学生のころに受けた「貧血検査」。薬指の腹をカッターみたいなものでザクッと切って、ストロー状の管で採血されるあれです! 思い出しただけで恐怖がよみがえります。でも、他府県出身の友人は聞いたことがないそう。これって沖縄だけ?(40代 Sさん)
貧血検査は沖縄だけ!?
調査員も40代、覚えています。検査が怖くて逃げ回ったり血を見てふらふらしたりした同級生もいました。「沖縄だけ」という情報の真偽は?
採血は全国共通
訪ねたのは沖縄市知花の中頭病院院長で、中部地区学校保健事業担当理事の宮里善次さん。
「学校の集団検診は、1958年に施行された学校保健法に基づいて始まりました。検査項目の一つで、検査技師が採血を行うのが『貧血スクリーニング』です」
法律で調べる内容が決まっているんですね。ところでスクリーニングとは?
「結果から、原因を推測する検査ですね。食事や運動など、子どもたちの生活環境を良くするための基礎資料となるんですよ」
なるほど。今の子どもたちも指にザクッとされている?
「実は94年に同法が一部改正されて、貧血は医師の視診でも良いとされたんです」
まぶたの裏や爪、唇の色などを医師が観察して、貧血かどうかを判断していいですよ、ということになったそうです。
「県内でも一部離島以外は視診に切り替えているようです。ですが、今また貧血が問題化しています。思春期の痩せ過ぎは将来の妊娠・出産に影響します。一方で生活習慣病です」
このままでは、病院に行く機会がない子どもたちは、採血を一度も経験せずに大人になるかもしれない—。宮里さんは、心配顔で話します。
データが貴重
採血自体ではなくザクッが沖縄だけ? 長年県総合保健協会に勤め、現在も検査技師として学校検診に携わる又吉賢弘(やすひろ)さんに県小児保健協会でお会いしました。
「貧血スクリーニングは、復帰の年に設立された県予防医学協会が、保護者の一部自己負担などでスタートしたんです」
予防協会など3団体が県総合保健協会として統合された91年には、保育所から専門学校まで、年間約17万件の検査を行っていたそうです。365日で割ると、1日当たり466件!
沖縄は検査技師がたくさんいたのですか?
「いいえ、全県で49人でした。対応できたのは、指先からの採血のおかげなんです」と又吉さん。聞くと、初代検査部長だった金城進さんが、ハワイから導入したのが、指先から採血する方法だったそうです。
「子どもたちは静脈からの採血が困難ですし、この方法でなければ、これだけの数をこなせなかったでしょうね」
1歳未満の「乳児検診」では今でも、全市町村でかかとからの採血を実施しているそうで、注射針を使わない方法としては共通しています。
「学校検診の目的は、病名の診断ではなく速やかに専門医につなぐこと。指やかかとからの採血は、少量なので検査項目が限られます。ですが、これまで実施してきた膨大なデータの蓄積が全国から注目されているんです」
沖縄の貧血スクリーニングデータは、全国の医療関係者、学校関係者を驚かせ、視察や講演依頼が相次いだそうです。「しかし法改正後の2009年には、県内の学校検診での採血検査も約1万件に減っています。この流れは全国的なことなので、過去のデータがますます貴重だと評価されているんですよ」と又吉さん。
沖縄の事例を紹介してほしいと言われ、又吉さんは九州に出掛けて指からのスクリーニングの普及に務めたそうですが、「県内では、お父さんお母さんが経験者なので疑問を持たずに続けられていたようですが、他府県では抵抗が強く、定着に至らなかったですね」とのこと。
二人が共通して話すのは、血液から得られる情報は有用性が高いということ。「友達の前では泣かないぞ」とザクッに耐えた思い出がよみがえった調査員。学校全体で実施したからこそ、貧血を見つけることができたんですよね。大人が力を合わせて、子どもたちが元気に学校生活が送れるよう、見守ってほしいなと思うのでした。