「島ネタCHOSA班」2014年07月10日[No.1526]号
南城市の知念半島をドライブしていたら、本が入っている大きなガラスケースがぽつんと立っていました。何なのか調べてください。
(中城村 Tさん)
南城市に無人図書館!?
知念半島をドライブですか。この時季、気持ちいいですよね。でも、質問のガラスケースには気付きませんでした。
手掛かりを求めて、南城市観光協会へ問い合わせました。対応した親川咲希さん(22)が、「う〜ん、そういえば見掛けたことがあるような…」とあちらこちらに当たってくれた結果、南城市知念山里の山里バス停付近と判明。早速ドライブへ…おっと、調査へ出発!
国道331号を走っていると、ありました。国道沿いの生活道の入口にあります。看板には、「山里ミニ文庫」の文字と利用方法が書かれています。地域の文庫なんですね。
地域文庫というと、公民館などの公共施設の一角や民家など室内のイメージですが、野外とは珍しい。しかも貸出名簿などはありません。中の本は、屋外の悲しい宿命で日焼けして真っ白になっていますが、荒れたイメージはありませんね。
すると、親川さんからさらに情報が。「建てられた当時のことが書かれた本がありますよ。知念図書館へ来てください」
本が身近な存在に
南城市知念久手堅の知念図書館は、昨年建て替えた真新しい建物。紹介された本は「斎場(せーふぁ)の杜 1992年創刊号(知念村文化協会発行)」です。村の出来事や暮らしぶりがつづられており、その中に「まちかど文庫の誕生 知念野外『ぐすくぶんこ』を設置して」という一文が載っています。あれ? 調査員が見たのは「山里〜」ですが…。
すると、図書館の奥から男性が一人現れました。なんと、この文を書いた玉城永邑(えいこう)さん(64)です。観光協会と図書館の連携のたまもの。本人に聞いた方が早い! と経緯をうかがいました。
当時知念村知念PTA支部長だった玉城さん。「子どもたちと地域の人に、本を読む環境をつくってあげたくてね」
当時の知念図書館は、知念小と知念中の間にあり、国道から離れていたこともあって利用には不便だったそう。本屋もなく、書籍に触れる機会が少なかったそうです。
「生活の中に本があり、身近に親しむ方法がないかとみんなで話し合ったんですよ」
そんな時、玉城さんたちは、他府県の野外自由文庫の存在を知りました。「『誰でも、いつでも、自由に利用できる地域の文庫』という設置趣旨が、僕らの考えにぴったりだと思いました」と玉城さん。そこで「最初に設置したのは、知念城跡入口のぐすくぶんこなんですよ」
なるほど、集落内に2基設置されたわけですね。
県内外から寄贈
計画が決まり書籍の寄贈を呼び掛けると、県内外から約5千冊の本が集まったそうです。「それらを整理して並べました」と玉城さん。管理者もいないとは、心配ではありませんでしたか? 「いえいえ、子どもたちの自主性に任せて、自発的に文庫を利用してほしかったんです。本が捨てられたり、扉が開けっ放しになったりすることは、心配するほどありませんでしたよ」
しかし文庫が建てられてから22年。国道が整備され、車の往来が増えたため、利用の際の危険性も指摘されました。だんだんと子どもたちの足も遠のいていきます。ぐすくぶんこは、今では木々に覆われ、その存在すら見落としてしまいます。
「図書館も整備されたし、近郊に大型ショッピングセンターもできたでしょう。地域文庫の役割は終わったと思いますね」と玉城さん。寂しくないですか? 「いえいえ、それでいいと思うんです。地域の人の心の片隅に、文庫の思い出が残ってくれれば」
そう話す玉城さん。時代が変わり、役割を終えた地域文庫。でも、かつて本の世界の入り口となってくれた思い出は、みんなの心に残っているはず、と思う調査員でした。