「島ネタCHOSA班」2017年01月19日[No.1656]号
親戚の73歳のトゥシビー(生年祝い)に招かれ、みんなで記念写真を撮りました。その記念写真を見ると、「古希祝い」と書かれています。沖縄では、古希とは70歳ではないのでしょうか。
(那覇市 厄年生まれさん)
沖縄の古希祝い 73歳!?
そういえば、調査員の親戚も数え年73歳にトゥシビーをしました。古希とは、70歳のはず。トゥシビーは、宴席を設け記念撮影をします。調査員は生年祝いなどの記念撮影の実績が豊富な写真館を訪ねて話を伺う事にしました。
写真館の宣伝文から!
答えて下さったのは、この道半世紀以上の写真館のオーナー兼現役カメラマンの知念さん(仮名)です。古希祝いの記念写真の依頼者は、70歳に来店されますか、それとも数え年73歳で?
「100人の依頼があるとするならば、90人以上が73歳の年に来店されます」
沖縄だけが特別に73歳なのでしょうか?
「沖縄では古希=73歳だと勘違いされていらっしゃる方がとても多いのです。何を隠そう、私も三十数年前までは73歳だと勘違いをしていました」
知念さんも勘違いされていたのですね! どうして73歳だという勘違いが始まったのでしょうか?
「復帰前のことですが、多くの写真館の店頭に『古希の記念撮影は73歳で』といったような宣伝文が貼り出されていました。なぜそうなったのか定かではありませんが、その宣伝文が人々の目に留まったことから勘違いが始まってしまったというのが、私の持論です」
では、「古希=70歳」に気がついたきっかけは?
「祖国復帰後、本土から写真材料や機材を卸す数多くの業者が沖縄にやって来ました。彼らにとっては、沖縄という新しい写真マーケットを学び、知る必要があったのです。業者の1人が『沖縄では、どんな種類の記念写真が多く撮影されているのでしょうか? 沖縄の写真事情を教えてください』と聞いてきたので、沖縄の生年祝いを教えてあげました」
トゥシビーから慣例化?
本土では生年祝いは一般的でないのですね?
「そうです。沖縄の生年祝いは13・25・37・49・61・73・85歳の干支(えと)の生まれ年にお祝いをするものですね。本土の業者にとっては新鮮だったようです。還暦は60歳。これは本土も同じ。しかし古希の年齢だけは違ったのです。本土の古希は70歳。店頭に貼ってある宣伝文を見て不思議に思ったようです」
沖縄は73歳の古希祝いが慣習化していますが、勘違いのきっかけが宣伝文なのも面白いですね。
「古希とは、唐の詩人杜甫が詠んだ『酒債は尋常行く処にあり、人生七十古来稀(まれ)なり』に由来します。古希は数え年の70歳の事なのです。どうやら沖縄では73歳の生年祝いと古希を混同してしまったようで、ボタンをかけ違えたまま今日に至ってしまっているのです」
記念写真からも沖縄の”古希祝い73歳伝説“がひもとけるのですね。調査員は写真館に並べられた記念写真の数々に見とれてしまいます。表情の豊かさを的確な技術で瞬間を捉え、パネル張りや額装も見事です。
「沖縄の記念写真は歴史も長いよ。海外移民した家族や親族へ送る家族写真が原点ではないかな。移民先から送られてくるのも家族写真。インターネットやテレビ電話が当たり前の時代になったけれど、印画紙に焼き込まれている『あの時の喜びや悲しみ』は、時間がたっても決して色あせない。せっかくの記念写真なのですから『その時』を残したいものです」
「古希の撮影をお願いします」「お客さま、ご年齢は?」「73歳になりました」。知念さんの写真館で、このようなやりとりがなくなるのはいつのことでしょうか。調査員は古希にはほど遠いのですが、70歳のその時を記念写真に残したいと思ったのでした。