「島ネタCHOSA班」2018年03月29日[No.1718]号
沖縄県立芸術大学の卒業・修了作品展で、とても印象的な像(立体作品)を見ました。動物をモチーフにしているのですが、実在のどの動物でもなく、どこか人間のようでもある不思議な作品なんです。ぜひ作者にインタビューしてください!
(那覇市 R・Sさん)
「ケモノ」のアート作品に注目!?
ほお、沖縄県立芸術大学(以下、県芸大)の卒業・修了作品展ですか。依頼を受け取ったのは、ギリギリ開催期間内(※現在は終了)。さっそく、作品を見に行きましょう!
人間のような動物たち
というわけで、卒業・修了作品展の会場となった那覇市おもろまちの沖縄県立博物館・美術館に足を運んだ調査員。
すると……。会場の入口に、2㍍以上はあろうかという巨大な像を発見(写真①参照)!
顔や脚はウサギやネコを思わせるのですが、丸く伸びる尻尾は恐竜のよう。二本足で直立している姿は、どこか人間のようであり、内に英知と憂いを感じさせるまなざしは、哲学者のようでもあります。なまめかしい、真っ白な皮膚も印象的で、確かに依頼者が言うようになんとも不思議な印象です。
タイトルは「在るケモノ」。卒業・修了作品展の優秀作に贈られる北中城村長賞を受賞した、とあります。作者の名は、堀本達矢さん。会場には、さらに四つの作品が展示されていましたが、いずれも動物をモチーフにしており、服を着ていたり、物憂げに脚を組んで座っていたり……と動物と人間をミックスしたような作風です(写真②、③参照)。
ケモノへの愛が根本
作品を見て、がぜん興味がわいてきた調査員。この春、県芸大の修士課程を修了したばかりの堀本さんを訪ね、話を聞くことにしました。
「作品の根本は、ケモノが好きということです」と熱く語り始める堀本さん。
堀本さんは、三重県出身。親が動物好きだったため、物心がついた頃から動物に囲まれて育ち、アニメやゲームに登場する擬人化された動物のキャラクターにも夢中になったそう。
動物の持つ、人間にない魅力にあこがれ、引き込まれていった堀本さんは、京都造形芸術大学に進学。動物をモチーフにした立体作品を制作し始めます。
「人間よりケモノに興味があることが恥ずかしかったんですが、大学に入って、それを美術作品にしてもいいんだと気付かされ、擬人化された動物(=ケモノ)の作品を作り始めました」
京都造形芸術大学に在籍中は、自分の体の一部をかたどって動物と組み合わせたり、自分の毛髪を埋め込んだり……と「ケモノになりたい」という思いをテーマに立体作品を制作。
「でも、毛を埋め込む手法だけが注目されて、キャンパスを歩いていても『毛の人だ』と言われて。また、自分が巨大なケモノの胎内に回帰するというパフォーマンス作品も制作したのですが、これは『やりすぎ』だったな、と……」
ケモノになりたいけれど、なりきれない……。そう実感した堀本さんは、学部の卒業制作でガラリと作風を転換。気分を一新してじっくり制作に取り組みたいと、県芸大の修士課程に進学しました。
作品のテーマも、「ケモノになりたい」から、「人はなぜ『ケモノ』を生み出すのか」に変化。堀本さんは、動物に人間の感情、言語、外見、身振りなどを含ませた存在を「ケモノ」と呼んでおり、県芸大では、一貫してケモノを生み出す人間の心理に注目して作品を制作してきたそう。
毛を封印した代わりに、堀本さんが生み出すケモノたちは、なめらかな白い皮膚で覆われることに。
「これは、石粉粘土と呼ばれる素材を使っています。発泡スチロールで型を作り、その表面に石粉粘土を薄くのばして、乾燥させて削って……をひたすら繰り返しています」
独特のなまめかしい質感の背景には、そんな工夫と努力があったのですね。堀本さんの今後の活躍も楽しみです!