「島ネタCHOSA班」2019年12月26日[No.1808]号
2020年の干支はネズミ。実は沖縄には、国指定天然記念物のネズミが2種もいることをご存じでしょうか。今回の島ネタCHOSA班では、そのうちの1種「オキナワトゲネズミ」についてご紹介します。
世界が注目するネズミがやんばるに!?
沖縄県北部のやんばるの森には、世界でもここだけでしか見ることができない固有の生き物が多数生息しています。ヤンバルクイナ、ノグチゲラなどは有名ですが、ネズミとなると、一般に広く知られているとは言い難いのではないでしょうか。
けれども、やんばるの森には、2種の国指定天然記念物のネズミがいます。1つは日本最大のネズミ「ケナガネズミ」、もう1種は「オキナワトゲネズミ」。ケナガネズミについては2019年5月2日付のレキオ表紙で詳しく取り上げたことがあるため、ここでは「オキナワトゲネズミ」にスポットを当ててみることにしましょう。
絶滅も危惧される希少種
今回、オキナワトゲネズミについて教えてくれるのは、沖縄大学法経学部 准教授・城ヶ原貴通さん。まずは写真と標本を見せてもらいました。ケナガネズミに比べサイズや形は一般的なネズミのイメージに近いのですが、毛の色が灰色ではなく赤褐色なのが印象的です。
毛は「針状毛」という、先がトゲのように硬く尖った形をしているのも特徴。このトゲ状の毛が、名称のゆえんです。「刺さるほどではないですが、捕まえる時には少し痛いですね」と城ヶ原さん。調査員も標本に触らせてもらいましたが、タワシのようにちくちくする感触でした。
「オキナワトゲネズミは普通に走れません。ぴょんぴょん飛び跳ねながら移動します。後ろ脚の筋肉が発達していて、2〜3㍍は跳ねますよ」。どうやら動きもユニークなようです。これは、ハブの攻撃から身をかわすためと言われているのだとか。
「オキナワトゲネズミは、現在、やんばるの森の5㌔四方という狭い地域にごくわずかの個体しか生息が確認されていません」
オキナワトゲネズミには、奄美大島にアマミトゲネズミ、徳之島にトクノシマトゲネズミという同じ属の近縁種がいますが、種としては別。オキナワトゲネズミは、やんばるの森だけの固有種です。
かつては沖縄本島北部のより広い地域に生息していましたが、次第に生息域が縮小。それでも1980年代以前には与那覇岳より南にもいたようですが、80年代以降、個体数が激減しました。その理由として、林道やダム開発に伴いネコが捨てられたり山に入り込むようになって、野生化したノネコにより捕食されたことが考えられるそう。
目撃例やネコのふんからオキナワトゲネズミの毛が発見されるケースも途絶え、一時は絶滅したのではと心配されていましたが、2008年3月に生存を確認。しかし危機的な状況であることには変わりはなく、城ヶ原さんは「オキナワトゲネズミは日本で絶滅の可能性のある哺乳類全体の中でも上位に入る」と警鐘を鳴らします。
性染色体の謎
「トゲネズミの仲間は今、研究者の間で熱い注目を集めています」と城ヶ原さんは力強く語ります。
注目の理由は、性染色体。哺乳類には一般にX染色体とY染色体の二種類があり、オスになるにはY染色体が必要なのですが、オキナワトゲネズミの近縁種であるアマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミにはオスにY染色体が見られません。
Y染色体なしでオスになる仕組みは未解明。また、オキナワトゲネズミのオスにはY染色体が存在しますが、それが肥大化しているという研究結果も出ているそう。
こういった特殊な性染色体を持つトゲネズミの仲間は哺乳類の性染色体や性決定の謎をさぐる上で重要な事例であり、「世界の研究者から問い合わせも多い」といいます。
そんな貴重な生き物であるオキナワトゲネズミが、これからも生きられるやんばるの環境であってほしいと願う調査員でした。