「島ネタCHOSA班」2023年03月23日[No.1976]号
毎年春ごろになると、やんばるではモーイという乾燥した海藻を売ってい るのを見かけます。「モーイ豆腐」という料理にして食べられているようです が、どんなものでしょう。詳しく知りたいです。
(名護市 黒猫ペー)
一部地域では春の風物詩、海藻モーイとは?
モーイとは、名護市の羽地 内海周辺などで採れる海藻の こと。冬からだんだんと春ら しくなるこの季節が、ちょう ど収穫期です。方言では、複数 種の海藻をまとめて「モーイ」 と呼ぶのですが、今回はクビ レオゴノリ、イバラノリと分 類される2種に対象をしぼっ て調査していきます!
漁師さんに聞いてみた
「モーイ豆腐はこの地域なら ではの珍味。冠婚葬祭の時に 食べますよ」
そう話すのは、名護市の仲 尾次漁港を拠点にモーイ漁 を行う 60 代の男性。「モーイ豆 腐」とは、乾燥させたモーイを 煮詰め溶かした後で、寒天状 となる性質を生かし、立方体 に成形した料理。羽地内海周 辺の地域では、家々に伝わり、 昔から食べられてきました。 男性の母親(大正 15 年生まれ) は、近海で採れる貝も混ぜ込 み作っていたそうで、モーイ 豆腐作りの名人として評判だ ったと懐かしみます。
男性は船で漁に出かけ、潜 ってモーイを採取しています。 水深は深くて4㍍程度。よく 光の届く場所では成長が早く、 1シーズンに2回収穫できる 株もあるのだとか。
採取したモーイは、からま った砂や石などの異物を取り 除きながら、乾燥させ出荷し ます。収穫方法が確立されて いなかった頃は、何度も異物 を取り除く作業が大変な手間 だったそうですよ。きちんと 乾燥させれば、数年間保存す ることも可能で、男性は「常備 食のようなものだね」とも話 します。
かつては、旧暦3月3日の 浜下り前後になると、一般の 人々も盛んに収穫をしていま した。より良い状態のモーイ を探そうと、浜辺で引き潮を 待ちわびるおばあさんたちの 姿が季節の風物詩になってい たそうです。
自然環境考えるきっかけに
次に調査員が連絡を取った のは、海藻類を研究する当真 武さん(沖縄県海洋深層水研 究所初代所長)。モーイの植物 としての特徴を詳しく聞きま した。
クビレオゴノリとイバラノ リは、海藻の中でも紅藻(こう そう)類と呼ばれるグループ に属します。目に見えない胞 子を水中に放出し増えていく んですって。3〜5月にかけ て収穫時期を迎えますが、水 温の高い夏場は胞子の状態で サンゴ片や礫(れき)の隙間な どに入り込んで過ごすそうで す。冬場になるとそこから発 芽し、採取できるほど大きく 成長するのです。
胞子は自分で泳ぐことはで きないので、クビレオゴノリ もイバラノリも穏やかな流れ がある海に生えます。成長に ちょうど良い環境というのは とてもデリケートで、護岸工 事や埋立てで、海中の環境が 変化すると、漁場を回復する ことは難しいと当真さんは教 えてくれました。例えば、豊見 城市与根の海岸は、 70 〜 80 年 代まで沖縄島南部で数少ない モーイの産地として知られ、 地域の人々が採取する姿も見 られたそう。しかし海岸線の 人工的な改変で環境が変化。 現在はモーイが生育せず、そ れに親しむ文化も忘れられつ つあるそうです。
モーイに限らず、沖縄県内 各地には、地域で採れる海藻 を食し、生活に利用するとい う文化があります。昔から綿々 と続いてきた文化に目を向け ることで、「自然海岸を大事に し、できるだけ負担をかけな い利用の在り方を考えてほし い」と当真さんは訴えます。新 たなレシピ開発などで海藻食 を盛り上げる取り組みも、自 然保護と文化の存続、双方か ら有益になるのでは、と提案 してくれました。
乾燥モーイはやんばる地域 のスーパー、さしみ店、特産品 を扱う施設などで、販売され ていることがあります。まず はその風味を知って、地域に 伝わる食文化や、自然との関 わりを体験してみませんか。
※モーイ=オゴノリ類、イバラノ
リ類は、県内各地で漁業権の対象
となっています。一般の方々には、
購入しての利用を推奨します
〈取材協力〉 沖縄生物倶楽部