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[No.2075]

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「島ネタCHOSA班」2025年02月20日[No.2075]号



 巳年でもあるので、ヘビのことを少し調べてみたんです。そしたらキクザトサワヘビという久米島にだけ生息するヘビがいると知りました。そんな生き物がいるんだと驚き。もっといろいろ知ってみたいです。

( 那覇市 ちぇるしい)

久米島固有種、キクザトサワヘビの物語

 キクザトサワヘビですか。あまり知られてない生き物、どうやって調べるかなあ…。

 調査員が力をお借りしようと訪ねたのは、沖縄生物学会会員の当山昌直さん。今回は、当山さんのお話を元に、キクザトサワヘビ研究の歴史を紹介します。

「まぼろしのヘビ」

 時は1956年。久米島小学校で校長の職に就いていた故・喜久里教達(きくざと・きょうたつ)さんが島内で見たことのないヘビを発見、採集します。ヘビは標本として、ヘビ類の研究をしていた故・高良鉄夫さん(当時は琉球大学教官、後に同学学長)に託されました。高良さんは、このヘビが新種であることに半信半疑だったようですが、詳細に調べた結果、新種であると認定。日本の動物学の大家である故・岡田弥一郎さんと共に、「キクザトアオヘビ」という名で58年に記載したのでした。現在とはちょっと違う名前だったのですね。

 最初の発見の後、本種に関する研究は20年以上時間が空きます。65年に久米島高校に勤めていた故・仲吉列雄さんが2例目の発見をしていましたが、それは公表されていませんでした。70〜80年代、爬虫類好きや研究者の間では、キクザトアオヘビは「まぼろしのヘビ」だったと当山さんは振り返ります。

 

 81年、沖縄県立博物館の職員として働いていた当山さんは、「沖縄群島両生爬虫類展」という企画展に携わります。56年に採集されたキクザトアオヘビの標本も展示したのですが、なんとそこに喜久里さん本人が来場。喜久里さんは80歳を過ぎていましたが、「あのヘビは川で見つけた」と、当山さんに重要な手がかりを与えてくれました。

3例目を発見!

 82年、当山さんは久米島の現地調査を実施します。3人の仲間たちとキャンプをしながら、島内の川を探しました。しかし、なかなか見つかりません。滞在期間のリミットも近づき、メンバーは半ば諦めムードでした。

 「くたびれて、明日帰る、という日の朝でした。朝飯を準備している間にぼくはぞうりを履いて、散歩がてら川をおりていったら、いたんです。水底をね、ゆっくりゆっくり這(は)っていた。見た途端、 じーんときました」

 その時の感動を伝えてくれた当山さん。生態写真も撮り、個体も採集(3例目)。改めて詳しく検討した結果、83年にアオヘビ属ではなく、「サワヘビ属」として当山さんが再記載することになりました。84年には和名もキクザトサワヘビと現在のものに改称しています。

 サワヘビ属は中国やフィリピンの標高が高い地域の川に生息する水棲(すいせい)のヘビ。日本国内には分布しておらず、56年の本種発見時にはアオヘビ属に分類されてしまったのです。このヘビの存在は、久米島がかつて、高い山を有する大きな島の一部であったことも示しています。

 「中国からヘビ類の研究者が来た時、地図で久米島の場所を示したら、『こんな小さな島にいるのか!』と驚いていましたよ」

 当山さんはそんなエピソードも教えてくれました。

 地球上で久米島だけに生息する固有種で、謎の多いキクザトサワヘビ。目にする機会はなかなかないのですが、研究に情熱を注いだ方々の物語と共に、生物多様性を示す存在として、ぜひ覚えていてくださいね。



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“久米島固有種、キクザトサワヘビの物語"
当山昌直さん
“久米島固有種、キクザトサワヘビの物語" “久米島固有種、キクザトサワヘビの物語"
キクザトサワヘビ(沖縄県指定天然記念物)の頭部のアップ(下)と水底を這う様子(上)。体長約60㌢。体は暗褐色でオレンジ色の斑点があります。鼻孔は上向きについていて、水面からの息継ぎに適しています。2枚の写真は当山さん提供。1982 年の調査で見つけた史上3例目の個体です
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