「表紙」2012年06月07日[No.1419]号
クワンソウ—和名をアキノワスレグサといい、県が指定する沖縄伝統野菜28種の一つである。古来より先人たちは、寝付けないときに、庭先に自生するクワンソウを摘み、豚肉と一緒に食べて改善を図るなど薬膳として重宝してきた。
「薬効は不眠以外にも、興奮やイライラの抑制、補血などにも効果があると言われているんですよ。今では、不眠の改善に効果があることは科学的に実証されていますし、根っこから花まで利用できる、無限の可能性が詰まった野菜なんです」と座間味さんは力強く語ってくれた。
伝統野菜と再スタート
座間味さんは浦添に生まれ、サラリーマン一家で育ったという。
「その頃の私にとって、農業は身近な存在ではなかったですから、まさか、自分が畑をやるなんて想像もしていませんでしたね」
高校を卒業後、東京の建築専門学校に進学。卒業後は沖縄にもどり建設会社で、順調に社会人としての人生をスタートさせた。
「入社後、30歳までは、ずっと現場管理をやっていました」 現場での経験を積み、今度は中の仕事をと総務部に異動する。そこで彼はある決断を下した。 「異動して会社の運営を考えるとなった時に正直、今の自分では難しいなと思うようになって、それで経済や経営のことを勉強しようと名桜大学に入ったんです」
大学生とサラリーマン、二足のわらじを履いた座間味さん。未来に向かって力強く歩みだしていたはずだったのだが、その道は、ある日突然、崩れ落ちてしまった。
「勤めていた会社が倒産してしまったんです。本当にまさかと言う感じでしたね、会社があって仕事があるのが当たり前のこと、日常でしたから。それが無くなってしまうなんて信じられなかったですよ」
大学に通うこともできなくなった座間味さん。まさにどん底だった。そんな彼を救ったのがクワンソウだった。
「今帰仁村でクワンソウを育てていた叔父がいて、8年ほど前から母が手伝うようになっていたんです。それをやってみないかと言われまして。仕事もすぐ見つかるわけではないしと思って、手伝うことにしたんです」
身近ではなく、想像もしていなかった農業。やるからにはと栽培から商品開発まで持てる力をすべてぶつけて真剣に取り組んだ。
「最初は大変でしたね。伝統野菜ではありますけど、管理されて栽培されてきたわけではないので、安定した収穫を得るには管理方法も確立しないといけませんでしたから。でも、栽培にしろ商品開発にしろやればやるだけ結果がでるんですよ。もう、それが面白くて、気づけば夢中でした(笑)」
生産者だけが知り得る喜びを知ってしまった彼は、どんどんのめり込む。今では四六時中、クワンソウのことを考えているのだと笑う。
「ダニがつきやすいんです。その駆除が一番、悩みどころですね。農薬を使えば簡単なんでしょうけど、安心、安全なものを作りたいので、それは絶対したくないんです。それで液肥に海水などを混合させたオリジナル防虫液を作りました」
栽培や開発だけではなく、伝統野菜の普及にも苦心する。
「クワンソウは野菜として食べるのももちろん、お茶にしても良いですし、エキスを抽出してサプリメントにしたり、もっと身近に感じてもらうためにって、何か別のことをやっていてもいつのまにか考えてるんですよ」
一度、崩れ落ちてしまった座間味さんの道。もう一度、作りなおした彼の新しい道は共に歩むクワンソウと同じく、その行く末に無限の可能性が広がっている。
(佐野 真慈)
ざまみまこと 1976年浦添市生まれ。興南高校卒業後、東京の建築専門学校へ進学。卒業後は県内の建設会社へ。32歳で大学に入学するも、会社が倒産。それを機に農家へと転身。以降、沖縄伝統野菜であるクワンソウの可能性を引き出す毎日を送る。今帰仁村や研究機関、食品業者と一体となってクワンソウ普及協会を発足し、県内のホテルやスーパーをはじめ、東京・銀座に店を構える有名天ぷら店にも納品するなど、普及にも積極的に乗り出している。
クワンソウ(花・茎)のヒラヤーチー
島豆腐とクワンソウ(茎)のそぼろ丼
チムシンジ
クワンソウ(花)のもずく酢
クセが無くあっさりとしていて、ほんのり甘いので、何にでもあいますよ。茎はシャクシャクとした歯ごたえが楽しめるので、ニラの代わりに使ってもおいしいです。