沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.2037]

  • (金)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2024年05月23日[No.2037]号

蓬莱の「素踊り」、
琉球舞踊の新たな潮流

「すがい半分 もーい半分」に、むるもーい

 琉球舞踊公演蓬莱は、阿嘉修さん(玉城流翠扇会師範)が日本舞踊の素踊りに挑戦してみ たいと始まった。琉球舞踊が完成する半分は、扮装にあると言われるなか、素踊りは半分に当 たる衣装・化粧がない。「それゆえ、技・心が試される修練の場」と、嘉数道彦さん(宮城流 能里乃会師範)、佐辺良和さん(世舞流二代目家元)らと舞台に臨む。その舞台裏には、2017 年の初演から制作を担い続けた前西原祥子さん(シアター・クリエイト代表)の存在があった。

 「阿嘉さんは振り付けの天 才」と評する前西原さん。同 世代の2人は 20 年ほど前、阿 嘉さんの地元コザで関わった 伝統芸能事業をきっかけに意 気投合。実演家と企画運営の 付き合いが今に続いている。

 今回、取材は蓬莱第8回公 演直前のこと。7月7日に独 演会を控えた中堅の大浜暢 明さん(玉城流てだの会師 範)も加わって、蓬莱のメン バーが整ういきさつを聞いた。

ノリが合うメンバー

 蓬莱のメンバーは、流会派 を超え年齢差を交えた男性 舞踊家6人。今さらながら奇 跡の顔ぶれである。

 阿嘉さんは当初、県立芸術 大学の後輩らに企画を持ち 掛けたが、「素踊りというとみ んな尻込みして、乗ってこな かった」と振り返る。阿嘉さ んはいったん公演を諦めた。

 3年後、再度の誘いに乗っ てくれたのは気の合う舞踊 家たち。気品ある古典女踊や 組踊の女方で熱烈な女性ファ ンを持つ佐辺さん、当時国立 劇場おきなわ芸術監督だっ た嘉数さんである。

 「年かさはそろった。後輩も いた方がいい」と、居酒屋で人 選に及んだ3人。阿嘉さんの 目に光る存在に映った沖縄国 際大学出身の大浜さんが呼 ばれ、さらに組踊研修を修了 した玉城匠さん(宮城流豊舞 会教師)、当時22歳の芸大生 だった上原崇弘さん(玉城流 喜納の会教師)に声を掛けて 蓬莱の陣容が整った。

 最年長と最年少の年齢差 は 21 歳。上原さんは上背17 8㌢、阿嘉さんは「年齢に偏 らず、体型も大中小そろった チームになった」と笑う。初演 の素踊りの衣装を仕立てに、 上原さんの体格に反物が足 りず、小サイズの阿嘉さんか ら”上納“して間に合わせた。

古典舞踊を踊る機会

 「呼び出されて居酒屋に 行ったら、そうそうたる先輩 方、後輩の2人もマルチフルで 頭が上がらない」。県立芸大 出身ではない大浜さんは、そ の豪華なメンバーに入っていい のかなと思ったそう。

 「あの3人から声を掛けら れてうれしいよね」と、前西原 さん。蓬莱がなければ、大浜 さんら”弟チーム“に出会うこ ともなかった。振り付けの才 と若手の成長を促す阿嘉さ んの手腕。前西原さんが長年 の阿嘉ファンであるゆえんだ。

 「蓬莱は素踊りに挑戦した い、普段踊る機会のない古典 や雑踊りなどの舞踊を踊り たいというシンプルな動機が 原動力。地謡も乗ってくれて いる」と、阿嘉さん。メンバーは 踊りたい古典舞踊をくじ引 きで決めた年もある。素踊り の稽古は”先輩チーム“がわ ちゃくい(いたずら)したり互 いに楽しんでいる様子。

 「6人それぞれ技量がすご い。材料がいいのでどう調理 (振り付け)しても最高の料 理ができる」と阿嘉さん。観 客は修練を重ね、磨き上げた メンバーの踊りを”みぐゎっ ちー( 観るごちそう)“とし て堪能できる。次回の蓬莱公 演は来春に予定されている。

(伊芸久子)



琉球舞踊 玉城流てだの会
大浜暢明の会
7月7日(日)開演14時(開場13時30分)
国立劇場おきなわ 小劇場
プログラム 素踊り「天川」「柳」「 初ムーチー」など
自由席3500円(当日4000円)
問い合わせ ☎090-3074-8295(シアター・クリエイト)
公演チケットは完売しました。





このエントリーをはてなブックマークに追加



チーム「蓬莱」
チーム「蓬莱」 衣装や結髪、化粧を排し、身体という素で突き詰める琉球舞踊を演目 に取り入れ、人気を博す蓬莱の公演。舞うは、流会派を超え年齢差 を交えた第一線で活躍する男性舞踊家6人。左から玉城匠さん、上原 崇弘さん、大浜暢明さん、嘉数道彦さん、佐辺良和さん、阿嘉修さん。 4 月27 日・28 日の第8 回公演で、新作素踊りを発表して満席の会場 を沸かせた=国立劇場おきなわ
写真・大城洋平
チーム「蓬莱」
新作素踊り「幽霊寄合(ゆーりーゆーれー)」  幼子や遊女と里之子、みやらび、恋多き主ヌ 前(すぬめー)の幽霊が寄合する霊界に、天寿 を全うした老婆の霊を迎え入れる様子をコミ カルに舞踊化。佐辺さんの発案、阿嘉さんの踊 りのアイデアを共に振り付け、作詞演出は嘉数 さん、音楽構成は地謡の仲村逸夫さん。
チーム「蓬莱」
古典女踊「諸屯」 阿嘉修さん 第8回蓬莱公演
チーム「蓬莱」
古典二才踊「高平良万歳」 大浜暢明さん 第8回蓬莱公演
>> [No.2037]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>