「島ネタCHOSA班」2012年05月10日[No.1415]号
県外出身の看護師ですが、沖縄には病院食に「アチビー」というのがあるのを知って驚きました。県外にはないとてもいいものだと思うので、ぜひ詳しく教えてください。(2012年05月10日掲載)
独特の病院食アチビー
(那覇市 30代女性)
患者のリクエスト
「アチビー」。なんかアチコーコーな語感だけど、ごめんなさい、知りませんでした。早速周りのお姉さま方に聞いてみたら、ご飯よりも軟らかく、お粥(かゆ)よりも硬いものとのこと。なるほど、病院で出てもおかしくない感じです。よし、日夜入院患者さんたちの食を考えている栄養士さんに聞いてみよう!
というわけで、県栄養士会副会長で、沖縄協同病院栄養室長の新垣慶子さんにお聞きしました。同院でアチビーを取り入れたのは20年以上前。入院中のお年寄りが水分を気にしてお粥を食べないという問題があったそうです。「慣れない入院生活で、夕飯にお粥を食べると夜中にトイレに行きたくなるのではないか、トイレに行くと周りの人を起こすのではないかという遠慮から、水分を控えたいと思ったのでしょう」。毎年、目標を決めて病院食の改善を図ってきた新垣さんたちは、そんな患者さんから寄せられた「アチビーはないの?」というリクエストに応えようと各方面に問い合わせました。県立南部病院(当時)で病院食として取り入れられていることを知り、同院のレシピを参考にして導入することになったそうです。
通常のご飯が米の約1・2倍の水で炊くのに対し、全粥は約5倍。アチビーは約4倍の水を使います。米をといで20分ほど水に漬けた後、ふたをして火にかけます。沸騰したらふたを取り、焦げ付かないように何度か鍋底から混ぜます。水分が多ければ、上澄みの重湯をすくって濃度を調節します。約20分炊いて火を止めたら、さらに何度か全体を混ぜます。
理にかなった老人食
硬いご飯よりも消化しやすい他、時間がたっても水分と米が分離しないという利点があるアチビー。「水分が分離すると食べる際にむせる危険性がありますが、アチビーは分離しないのでむせにくいのです。高齢化やさまざまな病気の影響で嚥下(えんげ、飲み込むこと)に障害のある人には、お粥よりも食べやすい主食です」と新垣さん。
また歯がなくてもかめるという特徴もあるといいます。「かむことはとても大切な運動です。口は消化器の入り口ですから、しっかりとかむことで腸が働き始めます」。なるほど。いうなれば、体を動かすあらゆる運動の基本中の基本がかむこと、なのかもしれませんね。おなかにも脳の老化防止にもよさそうです。
ところで、アチビーっていつ頃から食べられてきたのでしょう。残念ながらはっきりと記された資料が見つかりませんでしたが、昔の沖縄では、庶民の主食は主に芋だったとか。田舎では、米は仏壇に供える日に炊くぐらいだったという記述も見られました。旧盆の時に、エイサーの人たちにウケーメー(お粥)を炊いてふるまったということなどからも、お粥がごちそうだったことが分かります。貴重なお米を多めの水で炊いて、さらに薬草などを入れたさまざまなジューシー(雑炊)ができたのも、かさを増やすのと同時に医食同源を実践してしまおうという一石二鳥の賢い考え方かも。
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とっても優れもののアチビー。嚥下に関する学会でも紹介されたとのこと。そのうち、日本全国の病院や介護施設に広まったりして(?!)。大きな鍋で炊いた方がおいしいから、一人暮らしのお年寄りのためにコンビニで売り出したら?ニガウリが当たり前にゴーヤーと呼ばれるようになったように、アチビーが全国区になったら…なんて、つい妄想してしまった調査員でした。
(写真撮影協力/かりゆしの里管理栄養士の田場盛男さん)